働き方改革が叫ばれる中、ブラック企業の対極にある「ホワイト企業」が注目されている。
社員の幸せや生きがい、社会への貢献を第一に考える企業だ。
「そんな会社、ほんとうにあるの?」。そう思う方はぜひ本連載をお読みいただきたい。
今回は、ベストセラー『日本でいちばん大切にしたい会社』(坂本光司・著/あさ出版)の筆頭に紹介されている、日本理化学工業株式会社をレポートする。
チョークのシェア日本一を誇る同社は、障がいのある人を積極的に雇用している。のみならず、障がいのある社員こそ「得難い戦力」と評価する。その経営哲学とは。
社員の7割超が知的障がい者という企業
黒板にチョークで社名が書かれたウェルカムボードがむかえてくれる
知的障がい者が支える〝次代の教育〟
その工場は、鮮やかな絵が描かれた、ガラス扉の向こうにあった。
受付を通り過ぎ、左に曲がると、機械が駆動する低い振動音が徐々に大きくなっていく。工場と社屋を区切る扉の向こう、工場の中では20人ほどの人がもくもくと、それぞれの持ち場で一心不乱に手を動かしている。
ある人は、機械から流れ出てくる黄色く柔らかな棒状のものをリズミカルに取り上げては、ボードの上に真っ直ぐ3列5組に並べていく。長く黄色いそれはやわらかく、力の加減ではたわんで細く伸びてしまうから、見かけほど簡単な作業ではない。
またある人は、カットされた黄色いそれを一瞥し、数百個に一つ程度を横に置かれた二つの箱により分けていく。箱にはそれぞれ『×』『△』のマークが描かれている。『×』の箱の中のものに目をこらして見てみると、数ミリほどのくぼみが一つ、ポツンと横のほうにあった。
ここは日本理化学工業株式会社の川崎工場。
ホタテ貝の貝殻を再生利用、粉末で手や教室を汚さない『ダストレスチョーク』の製造で知られるメーカーで、先ほどの〝黄色く柔らかな棒状のもの〟の正体は、黄色いチョークだ。ここ川崎工場では白以外のカラーチョークが製造されており、中でも黄色がもっとも多く、1日12~13万本が製造されている。
そしてそのチョークを作っているのは、知的障がいを持つ人たち。
日本理化学工業は全従業員86名中64名が知的障がい者で、内26名が重度(平成30年7月現在)。それでいながら、これまでに最低賃金の適用除外を申請したことは一度もないという企業なのだ。同社のシェアは日本で使われているチョークのおよそ7割というから、次代を担う子ども達の学習の一端は、彼らが支えていると言えるかもしれない。
同社代表取締役社長の大山隆久さんがいう。
「当社では責任者1名をのぞき、製造ラインで働いているスタッフの100%が知的障がいのある人たちです。
福祉の素晴らしい実践? いいえ、当社では守るべき人たちではなく、戦力として働いてもらっています。福祉では事業を継続することはできませんから」
平成25(2013)年に公布された『障害者雇用法』は、本年平成30年に雇用率が引き上げられ、4月以降は常勤者45・5人以上の企業に対し2・2%(一人以上)の障がい者雇用が義務付けられた。が、雇用率が引き上げられる以前(常勤者50人以上の企業に対し2%=一人)の実績ですら48・8%(平成28年度)で、社内に一人の障がい者がいる企業は、半数にも届いていない。
そんな中で全従業員の74%が知的障がい者という実績はまさに驚異的であり、奇跡的と言っていい。