「日本伝統仏教者のためのマインドフルリトリート~日本仏教とプラムヴィレッジの相互対話」と題された研修会が、2019年5月8日から3日間、曹洞宗大本山總持寺を会場に開かれました。これは日本の伝統仏教の僧侶が、ティク・ナット・ハン師のサンガ「プラムヴィレッジ」と交流し、「マインドフルネス」をテーマに互いの修行法を共有するというもの。
全日本仏教青年会とプラムヴィレッジ招聘委員会により共催され、2015年から始まり今年で5回目。今回は「仏教における〈原点(オリジナル)のマインドフルネス〉」をテーマに戒律とサンガの成り立ちについて話し合われた。「ダーナネット」では基調講演を採録。初回はプラムヴィレッジのダルマティーチャー・チャン・ファプ・フイ師の講演を二週に分けて紹介します。
チャン・ファプ・フイ師
ティク・ナット・ハン師とプラムヴィレッジ
敬愛するタイ。そして、日本の僧侶の方々、在家の皆さん、私たちプラムヴィレッジの僧侶を日本にお招きいただき、こういったプラクティス(実践)を可能にする機会をお作り下さってありがとうございます。それでは今日は、プラムヴィレッジにおける戒律、そしてマインドフルネスのプラクティスとサンガの関係についてお話ししたいと思います。
私たちの僧院プラムヴィレッジを創設された方は、タイ(ティク・ナット・ハン師の愛称、ベトナム語の「先生」の意)です。そしてタイは、非常に名の知られたベトナム臨済宗の僧侶でございます。プラムヴィレッジの実践は、タイの元で30年以上続いてきました。皆さんご存知だと思いますけれど、1960年代にベトナム戦争がありました。タイは西洋世界に平和を訴えるため、欧米へ渡りました。しかしながら、それ以来約40年、ベトナムに帰ることが出来なくなっておりました。最初はたった一人で平和を訴えて回っていたのですが、1980年代にフランスでプラムヴィレッジを創設いたしました。
最初は本当に数人だけが一緒に住んで、マインドフルネスの実践をしていました。その後、タイは、こうお考えになりました。マインドフルネスのプラクティスをさらに深めていくためには、サンガという集合的な集まりが必要だと。男性の出家僧と尼僧、そして同時に在家の男女を含めたコミュニティーが必要だと。
1988年に、タイは、3人のシスター(尼僧)に「戒」を授けました。そしてその年に、まずは非常に初期の出家サンガが出来ました。それから、タイは弟子たちを伴ってさまざまな国へマインドフルネスの教えを説いて回り始めました。そしてタイの導きによってプラムヴィレッジを訪れる人たちが増え、また、得度を受けて出家となる者もだんだん増えてきました。
フランスのプラムヴィレッジで、歩く瞑想をするタイ(ティク・ナット・ハン師:最前列中央)
だいたい今、700人ほどの出家者がプラムヴィレッジにおります。20以上の国々からやって来ております。アメリカ、ドイツ、フランス、ロシアからも来ています。しかし多くはベトナム人の僧侶です。
2015年に、タイは脳出血を起こされて倒れました。現在、言葉を発すること、歩くことはご不自由です。それでも若い人たちがどんどん出家して、僧や尼僧として、私たちのコミュニティーに加わってきています。2015年以来、200人以上が出家をしております。そのような人たちをトレーニングする場所として、中心的になっているのが、タイランドのプラムヴィレッジです。
非常に若くして15、16、17ぐらいの年で出家する者もいます。タイ・プラムヴィレッジでは40歳ぐらいが、一番、年が上の方ですね。しかしながら例外的な人もいます。今ここにおります日本人ブラザー・サンライトは、50歳を超えていました。しかし彼は、日本で在家者のサンガを作り、マインドフルネスの実践を行い、サンガのために非常に熱心に働いておりましたので、私たちは彼を出家サンガに迎え入れることに致しました。
そもそも私たちプラムヴィレッジが出家に年齢制限を設けているのは、人は年を取れば取るほど、ネガティブな心の癖を強く抱え込むからです。ですから年を取りますと、新しい実践になじんで行く、慣れて行くのに、若い人たちよりも多くの時間がかかってしまいます。だから年の行った方よりも、若い人たちを優先的に迎え入れて、トレーニングしている訳です。中には、若くして出家した方のご両親がお見えになられて、その方々も一緒に出家して加わるというケースもあります。
正式に出家して比丘になるまで、2、3年はかかります。それまでは、沙弥(見習い僧)として修行します。プラムヴィレッジのサンガの中には、何人かの日本人の出家もいます。シスター・チャイは、長くアメリカに住まわれていた日本人の尼僧です。それから若いブラザー・ドゥクバン、シスター・マイデン。そして、今ここにいるブラザー・サンライトがいます。