――今回、スマナサーラ長老へのインタビューで学ばせていただいたことは、怒り(瞋)の感情がもつ、恐るべき強烈な負の力の存在でした。そして、私たち人類が生き残るために身につけた強者の論理が、「いじめ」というかたちで現代も数多の悲劇を生み出しているという現実でした。「じつは我々人類はすごく凶暴な存在なのです」(インタビュー「その3」より)という長老のお言葉に、我々が背負うことになった業の深さと、課題の大きさに圧倒される思いでおります。最後に、ストレス・マネジメントという本題に立ち返って、ひと言、お願いいたします。
このインタビューでは、科学者も敵わない、仏教の「心の科学」を披露しました。4回にわたりお話をしてきましたが、心というものには、たいへんなエネルギーがあるのです。有機体、遺伝子は単純ですからわかりやすいかもしれませんが、心は複雑でけっして一様ではありません。だから難しいのです。
しかし確かに言えることは、「心の法則」は破壊では成り立たないということです。「共存の法則」にそって心は進化する、これが真実です。
慈悲の実践。これをやってみた人はみな驚きます。「こんなにも効き目があったのか?!」と。今回、ストレス・マネジメントというテーマをいただきました。初期仏教の立場からは、結論としてこう言えるでしょう。――貪瞋痴のネガティブな生き方を見直し、慈悲の実践を通して「他の生命の役に立つ」生き方を学ぶ。そうすることで、ストレスにうち克ち、ポジティブな人生をいきることは可能になる、ということです。
――どうも、ありがとうございました。
*アルボムッレ・スマナサーラ長老(**Ven. Alubomulle Sumanasara Thero**)*
テーラワーダ仏教(上座仏教)長老。1945年4月スリランカ生まれ。13歳で出家得度。国立ケラニヤ大学で仏教哲学の教鞭をとる。1980年に国費留学生として来日。駒澤大学大学院博士課程を経て、現在は日本テーラワーダ仏教協会で仏教伝道と瞑想指導に従事する。他にNHK教育テレビ「心の時代」出演、朝日カルチャーセンター講師などを務める。『ブッダの幸福論』『無常の見方』『怒らないこと』(和文)『Freedom from Anger』(英文)など著書多数。