宗教学者 島田裕巳の“怒りの研究”

怒りを抑制する方法とは

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『武士の道』と『世渡りの道』


新渡戸稲造といえば、すぐに『武士道』という本の名前が挙がります。この本は、新渡戸が体調を崩し、アメリカのカリフォルニアで療養していたときに英文で書かれたもので、折しも日本が日清戦争に勝利したことで注目されていた時代だけに、海外でも広く読まれました。

確かに新渡戸は盛岡藩の武士の家に生まれていますから、武士の世界について知っていたことは間違いありません。ただし、自らは武士としての経験がなかったわけですから、武士道の実践者ではありませんでした。実際に読んでみると、そのあたりのことがよく分かります。しかも引用されている文章は日本の書物からではなく、主に英文の書物からのものです。ですから『武士道』は、日本人が書いた英文学の本として理解した方がよいのではないかと、私は考えています。

その新渡戸が日本に戻ってきて、第一高等学校(現在の東京大学教養学部)の校長に就任した後、『世渡りの道』と題した本を出版します。武士の道と世渡りの道とでは随分と隔たりがあるようにも思えますが、人間が社会に生きる存在であることを踏まえた上で、いかに生きるべきかを説いた内容なのです。

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