働く者を幸せにする経営

株式会社ラッシュジャパン 「マイノリティが幸せな会社は、マジョリティも幸せ」

監修=前野隆司 取材・文=千羽ひとみ(フリーランスライター)
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人を愛することは犯罪か?

こうした自治体へエールを送るラッシュジャパンの取り組みのベースにあるものを、小山さんがこんなふうに説明している。

「人が人を好きになる──。
そうした気持ちは、公平かつ平等であるべきだと思います。
スタッフから上がってきた声を聞いた際にも、自分ごと、つまり家族や友人にそうした人がいて、もっとも身近に感じられるテーマであるとか、今は身近にいなくても、その気持ちは想像できるというものが多かったように思います」

人が人を好きになるということは、人としてもっとも根本的な感情だろう。
だがその対象が同性であったというだけで、21世紀の今もなお、75か国もの国々では犯罪であり、終身刑や死刑となる国々がある。G7の一国である日本においてさえ偏見が払拭されたとは言いがたく、国連から2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催に向け、LGBTを始め性的マイノリティの人たちのさらなる権利向上を求められているのが現実。

基本的な感情を禁じるその非人間性に対しての、同社からのいち早い時期での態度表明が、こうした自治体への賛同表明だったのだ。

昨今、企業人からよく聞く言葉に『CSR(企業の社会的責任)』がある。
〝倫理的観点から、事業活動を通じて自主的に社会に貢献する活動〟と定義され、
自動車会社が子ども達向けに交通安全教室を開催したり、化粧品会社が老人ホーム等でメイク指導をしたり等々、各地でさまざまなことが行われているようだ。

業務を通じて地域や社会に貢献することでイメージアップを図り、間接的に売上に結びつけていこうという活動がCSRだとしたら、LGBT施策を始めラッシュが発信するメッセージの数々は、そうしたものとは全く違うものであると小山さんは強調する。

「ラッシュではマーケティングやPRを目的に社会活動を行なっているのではありません。当社ではエシックス(倫理観)こそがビジネスの土台であり、私どものビジネスの原動力となっているのです」

こうした姿勢は、昨今では『エシカル・ブランディング(法律などの縛りがなくても、道徳的・倫理的に正しいと思う事を行うことでブランディングする)』としてマーケティングの分野では実はおおいに注目されており、これを前面に押し出している企業はしばしばエシカルな企業/ブランドと呼ばれるが、動物実験反対の段階までさかのぼれば、ラッシュはこうした言葉が生まれる20年以上も前から、エシカルな企業であり続けたことになる。

2018年5月、ダイバーシティ(多様性社会)実現を謳う『東京レインボープライド』が、各国大使館や錚々たる大企業の支援協賛を受け、14万人の参加と7000名でのパレードを実現して大盛況のうちに閉幕した。

「すべての愛に平等を」をテーマに行われた『東京レインボープライド』のパレード。ラッシュジャパンも協賛している

ロシアで反同性愛法が施行された2013年の参加者といえば、1万2000人、パレードにいたってはわずか1200人の規模であった。わずか5年前とは言え、この時代に当時者であることをオープンにし、パレードに参加するのは、今とは比較にならないほど社会的に危険なことでもあったのだ。そんな危ない考えを法人として支援するとなれば、反発や幻滅を感じる人も少なくなかった。

ラッシュのLGBT支援は、賛同者たちが人目を気にしつつ細々とパレードが行っていたこうした時代からのものであり、まさにエシカル企業の面目躍如と言ってよい。(次回につづく)

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