働く者を幸せにする経営

北洋建設株式会社 「加害者に仕事という幸せを提供すれば、社会はずっといいものになる」

監修=前野隆司 取材・文=千羽ひとみ(フリーランスライター)
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小澤さんの受刑者雇用への献身は、その生い立ちが深く関係している。

北洋建設は小澤さん誕生の前年1973年に、父・小澤政洋氏によって創業された。 当時の日本は高度経済成長期の真っ最中でどの業種も好景気に沸き立っており、建築業も、現場に人を供出すればそれだけで収入になるような状況だった。六畳一間から北洋建設を起こした政洋さんも、事あるごとに会社近くの札幌刑務所を訪れては、人材集めに奔走していた。

「出所したら行くところはあるのか? 引き取り先がないのならうちへ来い!」
そう誘っては、受刑者たちを迎え入れていたのである。多い時は、およそ百名の従業員のうち、半数から80人ぐらいが刑務所からの出所者だったこともあると言う。

「僕が生まれる前からやっていたことですから、元受刑者が身近にいることは、幼い頃からごく当たり前の事でした。荒っぽい毎日でしたよ。従業員どうしの喧嘩は毎日。と言うか、毎日が喧嘩。一升瓶の割れる音がしたと思ったら、その割れた一升瓶で刺し合おうと向かい合っていたり。

ですが父はそんな従業員たちを本当に大切にしていて、母も毎朝4時に起きては朝食を用意して、彼らの弁当を作っていました。そんな両親の姿から、〝どんな社員もみな家族〟ということを学んだんです」

若き日の小澤社長。高校中退後、ギターを抱えて

さらには10代で現在に繋がる経験をする。
中学からバンド活動にのめり込み、高校ではボクシング部の設立に邁進したが、ボクシングを危険視して廃部にしようとする校長と対立、入学1年も経ずして退学してしまったのだ。当時は家業を継ぐ気などさらさらなく、将来の夢はロックミュージシャン。退学を機にバンドで身を立てようと決め、当時流行のパンクファッションを身にまとい、髪を鮮やかなピンク色に染め上げた。

バンドの活動資金を貯めようと、そんな格好で近所の花屋さんにバイトの面接に行った時のことである。店長は、小澤さんの姿を見るなり「ふざけるな!」と一喝し、目の前で履歴書を破り捨てたのだ。
「その時思ったのは、人は見た目で判断されてしまうということでした。うちは建築業。新築や新規開業に花はつき物です。僕の使いようによっては、花の売り上げは相当上がったはずなのに」

──人の価値は見た目ではわからない。どんな人材も、使いようによっては欠かせない財産になり得る──

この時の気づきが、受刑者を積極的に雇用し続ける信念となる。

※本連載が書籍化されました! 続きはこちらでお読みください。

幸せ企業のひみつ 〝社員ファースト〟を実現した7社のストーリー
編・著者:前野隆司 著者:千羽ひとみ
出版社:佼成出版社
定価:本体1,400円+税
発売日:2019年7月17日

※幸福学研究の第一人者・前野隆司氏が「社員を幸せにする」7社を取り上げ、“社員ファースト”の実現こそが上向き経営につながり、結果として皆が幸せになるという実例を紹介する。 連載に加え、書き下ろしによる「第1部 ホワイト企業を目指す意義とは」(前野隆司)を追加。

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