田舎の建設会社で見つけた〝働く喜び〟
蓬台社長が〝BBQフィロソフィ〟にたどり着くまでの軌跡とは――?
そもそもは、株式会社都田建設現社長・蓬台浩明さんが新卒入社した会社から転職、1999年に『有限会社都田建設』に入社したことから始まる。当時の同社と言えば、内山覚社長(現会長)がパートの女性1名とともに、四畳半一間で営んでいた小さな建設会社に過ぎなかった。
「当時の都田は〝猫も歩かないような田舎〟で、若い人達は東京や名古屋、大阪に働きに出てしまって空き家がいっぱい。残っているのは高齢者ばかりと言う、衰退する地方を象徴するような場所でしたね」(蓬台さん)
こう語る蓬台さんは、静岡大学工学部と千葉大学の工学部建築学科で学び、転職前は、〝家という人生最大の夢や希望をかたちにでき、なおかつ仕事を通じてお客様と気持ちが繋がっていく〟仕事ができると、大手ハウスメーカーM社に入社したエリートサラリーマンであった。
だがM社での毎日は、失望するばかりであったという。
同期や先輩相手に蓬台さんが目を輝かせつつ〝将来はこんな家づくりを担当してみたい〟と夢を語ると、〝お前、アホか!?〟〝いい大人が暑苦しいこと言っていないで仕事を取ってこい!〟そんな反応が返ってくる。
入社して初めて契約を手にした時の反応は、今も忘れられない。
初受注は、同期の中で蓬台さんが一番遅かった。それだけに喜びは大きく、お客様が自分とM社を選んでくれた喜びに胸を弾ませ、本社に飛んで帰った。そして大きな声で同僚や上司に報告した。
〝やりました! ようやっと契約が取れました!〟
「ところが事務所はシーンとするばかり。それで自分の席に戻ったら、上司と先輩が、〝うるさい! 一回契約を取ったくらいで騒ぐな!〟と。
でも、その時は〝ああそうか。クールに、表情に出さずにいい仕事をするのがプロ。きっとそういうのがカッコイイことなんだ〟と思ったんです」(蓬台さん)
だが、それが2回、3回と続いていくと、蓬台さんの胸に諦めに似た感情がわき上がってきた。
「大人になるってこういうことなんだ、と。夢を語ったり、うれしいと思った事を表現するのは抑えなければいけないんだ、と」(蓬台さん)
のちに静岡支店に転勤。だがここでも状況は同じだった。
うれしいことはうれしいと、感情を素直に表したい自分と、クールに契約件数を積み重ねていく上司や同僚たち。転職を考え始めたのは、それを苦にしたわけでなく、建築の現場を知りたかったのが理由だったと蓬台さんは言う。
現場が体験できる職場を見つけるべく、蓬台さんは転職活動を開始。学生時代を過ごした浜松のハローワークに通っては、求人票をめくっていた。
そんなある日のことだった。
『(有)都田建設』という社名と給料、そして現場監督という仕事内容の三項目だけが書かれた求人表が目に留まった。求職者の気を惹こうという工夫もひねりもない、素っ気なさの極みのような書面であったという。
「一目見て、泥臭い、コテコテの建設会社に違いないだろうと思いました」(蓬台さん)
予感は的中。
面接を受けようと電話をし、記載してあった場所に足を運んで社屋はどこかと探してみると、ごく普通の民家があった。ガレージの2階には、四畳半に机3つを並べただけの小さな部屋が。そこが事務所であり、本社であった。
薄々は予感しながらも、M社本社の洒落たオフィスとの落差に、蓬台さんは茫然とするばかり。
驚きは、事務所に入ってからも続いた。内山社長の夢やこうなりたいという希望を書いた紙が、ところ狭しと貼ってあったのだ。
張り紙いわく〝3年後には3階建ての事務所を作りたい〟〝支店を作るぞ!〟〝地域のためのフリースペースを持とう!〟etc.
「小さいことから夢を語るのが好きで、馬鹿みたいにしたいこと、やりたいことを語っていたのに、いざ入社して〝こんな家づくりをしてみたい〟と夢を語ると、〝馬鹿か、お前は!?〟。それがここでは壁に夢が貼ってある(笑)。これまで自分の中からなくそう、なくさなければならないと思っていたことが、ここにみんなあったんです。
それで、〝ここで働きたい!〟と。小さな地域のローカルとも言えそうな場所で、真剣に人と向き合って仕事をしていきたい。そう思ったんです」(蓬台さん)
蓬台浩明さん、現場監督として(有)都田建設に入社。
従業員数2000名を超える大企業から、内山社長とパートの女性、そして蓬台さんの計3人の、超零細企業への転職であった。
※本連載が書籍化されました! 続きはこちらでお読みください。
出版社:佼成出版社
定価:本体1,400円+税
発売日:2019年7月17日
幸福学研究の第一人者・前野隆司氏が「社員を幸せにする」7社を紹介。“社員ファースト”の実現が上向き経営につながった実例をレポートする。本サイトでの連載に 「第1部 ホワイト企業を目指す意義とは」(前野隆司)を加筆。
バックナンバー「 働く者を幸せにする経営」