〝定年なし 生涯現役〟体制は創業時から
さて、同社の高い技術を支えるもの。それこそが1924年の創業からおよそ百年ものあいだ継続している、従業員の〝定年なし 生涯現役〟体制。そしてこの究極の目的は、多能工の育成であるという。
「〝定年なし 生涯現役〟と言っても、カッコイイところは一つもないんです。
当社の特色は〝定年なし〟と〝自社一貫体制〟、そして従業員は〝原則正社員オンリー〟という点です。従業員がすべて正社員ということは、生涯に渡る雇用を会社が保証するということ。専用工作機製造に生涯携わってもらうには、従業員にはさまざまな技能を持ってもらわないと通用しないのです」(西島社長)
工場内にて。コミュニケーションを密にとることが、適材適所の人材登用につながる
専用機づくりは、ラインでの自動製造が難しい。百社から発注があれば、百社向それぞれに合わせて百台を設計して製造し、組立てしなければならない。専用機は、大量生産ができないのだ。
そうした条件下では、設計も理解できれば加工の現場も知っている、組立もできれば溶接もできる多能工は、なにものにも勝る戦力となる。
なぜなら、電気関連の技術者にも加工の知識は必要だし、組立の経験もプラスされれば、本来の業務にも益するところ大だろう。設計者であればなおさら幅広い知識と経験は貴重な素養だし、営業スタッフに設計の知識があれば、的確なアドバイスで客先ではおおいに頼りにしてもらえる。
だが、こうした幅広い知識と技術を有した多能工の育成には、十分な時間が欠かせない。さらには多能工が長く在籍することは、技術やノウハウを蓄積することそのものでもある。
「つまり、当社の〝定年なしの生涯現役で正社員オンリー〟は、必然から来ているだけのものなんです」(西島社長)
必然から誕生し、創業以来百年近く継続されている同社の体制は、実は昭和の町工場のあり方そのものであると西島社長はいう。
「町工場と言うのは家族経営が基本で、資本もないし、部署もないのが普通です。
社長自身が営業をして仕事を取って、夜なべをして図面を描く。旋盤廻して加工したら、軽四の荷台に積んで納品する。これは多能工そのものですよね。
そんな中では、60歳になったら自動的に引退するような定年制なんて考えられない。
当社は本年2019年で創業95年を超え、おかげさまで従業員数も140名を超えましたが、こうした町工場のいいところを残しているに過ぎないんです」(西島社長)
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出版社:佼成出版社
定価:本体1,400円+税
発売日:2019年7月17日
幸福学研究の第一人者・前野隆司氏が「社員を幸せにする」7社を紹介。“社員ファースト”の実現が上向き経営につながった実例をレポートする。本サイトでの連載に 「第1部 ホワイト企業を目指す意義とは」(前野隆司)を加筆。
バックナンバー「 働く者を幸せにする経営」