働く者を幸せにする経営

石坂産業株式会社 「徹底した〝見られる化〟で実現させた大逆転経営」

編著=前野隆司 取材・文=千羽ひとみ(フリーランスライター)
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ネイルサロン開業の資金稼ぎに腰掛け入社

“父の思いを引き継ぎたいと思った”と語る石坂社長

里山再生の最大の功労者にして石坂産業株式会社代表取締役の石坂典子社長は、同社創業者である石坂好男先代社長の長女として、1972年に生まれた。
高校を卒業後、アメリカへの短期語学留学を経て平成4(1992)年に石坂産業へ入社するが、これは帰国後も就職せず、イベントコンパニオンのアルバイトを続ける娘を案じた父・好男氏から一喝されてのことであった。〝昭和の父親〟には、コンパニオンという職種が、どうも理解できなかったのだ。

「もともと私はデザインなどの仕事を夢見ていましたが、アメリカでネイリストの仕事に出会い、将来はフリーのネイリストになりたいと。それで20歳の時にサロン開業の資金を調達しようと父の会社(石坂産業)にお世話になって、月給15万円で受付事務の仕事についたんです」(石坂社長)
当時は後継者となる気などさらさらなく、資金が貯まれば即退社しようと思っていた。ところが入社してしばらくたつと、家業に対する自分の思いと、世間が見る目とのギャップに、嫌でも気づかされることとなった。

人が生きるということは、ゴミを出し続けることそのものだ。
ペットボトル入り飲料水は、飲み終えた途端にゴミとなる(一般廃棄物)。家を建て直せば、古い家は建設廃棄物(産業廃棄物)になるし、歩道や道路を整備すれば、掘り返されたアスファルトは誰かしらが処理せねばならない。
誰もが出し続けるゴミを、その誰かに代わって処理する意義ある仕事、なくてはならない役割であると思っていた石坂社長は、世間の偏見に愕然とした。

「受付で応対していると、〝産廃屋〟〝ゴミ屋〟といった偏見を持って見られていることを感じていました。〝まともな人がやる仕事じゃない〟と言われたこともありましたね。それと同時に、社会からの認知というか、地域からの理解がまったく得られていないとも感じていました」(石坂社長)

そうした偏見を知れば知るほど、社員たちへの尊敬の念が高まっていく。
廃棄物処理に分別作業は欠かせないが、当時、作業はまだ露天の状態で行っていた。社員たちは夏は炎天下の下、冬は寒風吹きすさぶ中、誰もが嫌がるゴミの中に手を突っ込んでは、廃プラや金属片等を取りだしていた。環境のため、仕分けをしてリサイクル率を高め、埋め立て処分するゴミの量を減らすためである。

「素晴らしい仕事で、これほど世の中に貢献している仕事はないと思いました。
さらには父がこの事業を興した思いも聞くと、〝この思いを引き継ぎたい〟と、素直にそう思うようになったんです」(石坂社長)

石坂産業先代社長の父・好男氏は、鮮魚店の店員を振り出しに職を転々としたのち、一念発起してダンプカーを購入、昭和42(1967)年に東京都練馬区に土砂処理と鳶を手がける石坂組を興した。昭和50(1975)年に産業廃棄物の収集運搬を開始。7年後の昭和57(1982)年には現在の埼玉県三芳町に移転、産業廃棄物処理を本格化させた。さらに昭和61(1986)年には現在の石坂産業株式会社に商号変更をしている。まさにたたき上げの人物である。
そんな好男氏が産業廃棄物処理を本格化したのは、石坂組時代に行っていた、集めては埋め立てる処理のあり方に、疑問を感じたからだったという。
この時の好男氏の思いを、石坂社長の著書『絶体絶命でも世界一愛される会社に変える!─2代目社長の号泣戦記』(ダイヤモンド社刊)から引用させてもらおう。

『毎日毎日、解体した廃材を東京湾に運び、埋め立てる。でも、捨てられているものを見ると、使えるものが結構あった。もったいないと思った。
こんなことがいつまでも続くわけがない。いずれゴミを捨てる時代は終わる。これからはリサイクルの時代がこなくちゃいけない。そう思って、今の仕事を始めたんだ』

廃棄物はとことん分別し、リサイクルし尽くし、最後の最後に残った残存物のみを焼却すべき。そうしないとやがて東京湾がゴミで埋め立て尽くされてしまうことになる。
ゴミ問題が表面化するずっと以前から、こうした意識を抱いていたのだ。
そんな危機感から、平成9(1997)年には他社に先駆け、十五億もの巨費を投じて最新型のダイオキシン対策炉を建設している。当時の年間売上が二十数億円だったことを考えれば無謀ともいえる投資であり、賞賛に値する先見性であった。

だがこの先見性が、皮肉にも石坂産業最大の危機を招く要因となっていく――。

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幸せ企業のひみつ 〝社員ファースト〟を実現した7社のストーリー
編・著者:前野隆司 著者:千羽ひとみ
出版社:佼成出版社
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幸福学研究の第一人者・前野隆司氏が「社員を幸せにする」7社を紹介。“社員ファースト”の実現が上向き経営につながった実例をレポートする。本サイトでの連載に 「第1部 ホワイト企業を目指す意義とは」(前野隆司)を加筆。

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