自己分析と他者観察を行う
今の社会は、「自己決定、自己責任の時代だ」と言われます。
しかし、仏教では、「自分というものが強ければ強いほど、苦しみも大きくなる」と説いています。つまり、自己をしっかりもつほど、二律背反の状態に置かれるわけですね。
時々、学生を見ていると、「この子は、自分というものが大きくなりすぎて、しんどいやろうなあ」と思うことがあります。しかし、これは「自我の肥大」を自分で認識していないから、よくないのです。もっと自覚的にならなければならない。
人類学者のグレゴリー・ベイトソンは、無自覚に二律背反状態へと置かれるのはよくないが、禅の公案のように自覚的な二律背反状態は人に大きな成長をもたらすと考えました。
私はよく学生たちに、「自己分析」と「他者観察」をしっかり行うことを勧めています。「自分ならこうするけれど、あの人は、あんな行動をとるのか」などと、観察するうちに、自分のありようがわかってきます。
自分というものが見えてくると、生きていくうえで取り組まなければならない問題にも、しっかりと向き合うことができますね。これも、幸せへの大きな手がかりになると思います。
人間の体と心は、調えることによって、しっかり生き抜いていける。仏教は、現代人に大切な智慧がたくさん説かれていて、とても面白いなあと感じるのです。
相愛大学教授、浄土真宗本願寺派如来寺住職
釈 徹宗(しゃくてっしゅう)
1961年、大阪府生まれ。大阪府立大学大学院博士課程修了。浄土真宗本願寺派如来寺住職。専門は宗教思想。大学で教員を勤める一方、自由に仏法を語る気鋭の僧侶として、注目を集める。著書に『親鸞の思想構造』『いきなりはじめる仏教生活』『聖地巡礼コンティニュード』など多数