宗教学者 島田裕巳の“怒りの研究”

金持ちと貧乏と怒りの連鎖

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人間の感情は経済で変化する

私たち日本人もかつて、この「ちょっとばかり金持ち」になる経験をしています。高度経済成長が始まって以降、所得はどんどんと伸びていきました。その時代、外国の人から見れば、日本人も「怒りっぽく」なっていたのかもしれません。確かに、当時はストライキやデモなどの社会運動が盛り上がりを見せていましたから、日本の社会にも怒りのエネルギーが充満していました。

その後の日本は低成長の時代に入りました。時の政権は、常に経済の発展を旗印に掲げていますが、そうした政策が上手くいっているようには見えません。かえって経済格差が広がり、むしろ「ちょっとばかり貧乏」になった人が増えています。貧乏が怒りを生むかのように思われていますが、いまの日本の社会では、モノだけはあふれ、社会保障の制度も確立されています。そこそこの生活を送ることはできるので、怒りがふつふつとわく状況にはなりません。

怒りは、個人の体験であるとともに、社会現象でもあります。経済の状況によって、その社会に生きる人びとの怒りのエネルギーが大きく左右されます。経済が発展するよりも、安定した経済が実現されることのほうが、怒りを少なくすることに結び付くのかもしれません。

島田裕巳氏
宗教学者
島田裕巳(しまだ ひろみ)
1953年、東京都生まれ。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。新宗教、仏教、神道、冠婚葬祭に加え、死との向き合い方、生き方など、宗教学の視点から幅広いテーマで研究・執筆活動を展開する。著書に『葬式は、要らない』『神道はなぜ教えがないのか』『島田裕巳の日本仏教史 裏のウラ』など多数。近著に『日本の新宗教』『人は、老いない』がある。
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