「承認欲求」が「怒り」を生み出している
怒りの発生する根本には、自分は他人よりも偉い、自分はもっと世間に認められてしかるべきだという意識があります。これを心理学者のアブラハム・マズローは「承認欲求」と呼びました。
承認欲求は誰にでもあります。新渡戸や芥川はエリートですから、人一倍それが強かったはずです。当然、私にもありますし、読者のみなさんにもあることでしょう。承認欲求がある限り、怒りは無くなりません。ならば承認欲求を無くせばよいのでしょうか。それが仏教で説かれるところの「悟り」なのかもしれませんが、その境地に至るのは容易ではありません。
とりあえず、いまの私たちにできることは、自分のなかにある承認欲求を認め、それが日々の行動にどう影響しているのかを見定めることではないでしょうか。そうすれば、少しは怒りが抑制されるように思えるのです。
宗教学者
島田裕巳(しまだ ひろみ)
1953年、東京都生まれ。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。新宗教、仏教、神道、冠婚葬祭に加え、死との向き合い方、生き方など、宗教学の視点から幅広いテーマで研究・執筆活動を展開する。著書に『葬式は、要らない』『神道はなぜ教えがないのか』『島田裕巳の日本仏教史 裏のウラ』など多数。近著に『日本の新宗教』『人は、老いない』がある。
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