“幸せ力”をつける

物事はいいように考える、と努めていく―内田 樹―

思想家 内田 樹
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発想の切り替えが大きな力に

ぼくは「敵を作らない」ということを心がけています。自分のすることに反対する人も、妨害する人も、敵だとは思わない。「この人がいるせいでぼくの自由度が下がり、可動域が狭められた」とは考えない。

どんなことをされても、「昔から、そうされることに決まっていた」と考える。与えられた状況については文句を言わない。「そういうもんだよ」と自分に言い聞かせる。

ぼくの合気道の師である多田宏先生の、さらに先生で中村天風という方がいます。天風先生が日露戦争で軍事探偵をしていたときの、こんな逸話を多田先生から伺ったことがあります。

天風先生が列車の下に潜り込んで、車内の密談を聞いていたら突然、列車が動き出してしまった。身動きならず、そのまま何時間も列車の下にしがみついていた。そのとき、天風先生は「俺は生まれてからずっとこのかたちだ」と自分に言い聞かせていたそうです。

病気や災難に襲われたとき、つい「それが起きなかった場合」を想像して、「なぜこんな事態に陥ったのか」と恨んだりします。でも、それで状況が好転する可能性はゼロです。

だったら、「生まれてからずっとこのかたち」だと断定するほうがいい。これ以外の選択肢はないなら、自分から進んで「今、いるべきときに、いるべき場所にいる」と断定した方がいい。そうすれば天風先生がされたように九死に一生を得ることもできる。

同じように、何か願いごとがあれば、「必ず実現する」と自分に向かって断定する。その夢の細部にまで想像を膨らませて、具体的なことを詰めてゆく。 この作業は楽しいですから、想像していると、どんどん心身のパフォーマンスが向上する。だから、「こんな夢、実現するはずがない」と思うのと「必ず実現する」と断定するのとでは実現の可能性が天と地ほど違ってきます。

人間の念じる力を侮ってはいけないのです。

思想家
内田 樹(うちだ たつる)
1950年東京生まれ。東京大学卒業。東京都立大学大学院中退。神戸女学院大学教授。京都精華大学人文学部客員教授。『私家版・ユダヤ文化論』で小林秀雄賞受賞、『日本辺境論』で新書大賞を受賞するなど、話題作を次々と刊行。多田塾甲南合気会師範、六段。ブログ「内田樹の研究室」への総アクセス数は2000万超で、一日およそ15000件。ネット時代における柔軟かつ硬派の発言者
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