対談

“揺るぎない自信”は得られるのか? 文化人類学者・上田紀行×精神科医・名越康文

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人間の尺度を超えたものを信頼することで、自信を得られることがあります

思い出に残るだけで十分じゃないか

上田人生の半分を過ぎると、漠然と思い描く未来に対して、到達できることとできないことが分かってきますしね。
名越40代で、人生に対しての不安と焦りがすさまじく出てきます。若いころになりたかった自分になっている部分もあるとは思うんですよ。でも、「え? 自分が望んだのはこんなものだったのか」という喪失感もある。
上田なるほどね。僕は絶不調のときにNHKから『次の癒やしを考える』というテーマの仕事をいただいて、サンフランシスコに行ったんです。そこでネイティブアメリカンの儀式を基にしたヒーリングを体験しました。

名越すごい! 飛び込んだんですね。なかなかできない体験です。
上田そこでは、催眠状態に入りながら幼少期に遡って、傷ついたことや後悔している体験を吐き出し、心を開放していくのですが、私の場合はある段階になって、自分の卒業した小学校が現われたんです。
名越心の内にあるものが見えたんですね。
上田そう。6年1組の教室には担任だった相沢先生が立っていた。その10年前に60歳で亡くなっているのですが、その瞬間に号泣してしまって。肥満児で劣等感の塊だった僕は、先生が担任になって、勉強の面白さを教えてもらえたんです。先生は優しいけれど、世の中の不正や弱者を救えない社会に目茶苦茶、怒っている人でした。
名越そのとき、先生の温かな人柄や情熱が上田さんの心にドッと伝わってきたわけですね。
上田そうなんです。それで先生のように生きればいいんだと感じたんです。僕はこれまで「癒やし」という言葉を世の中に広めて「みなさん癒やされましょう」と言ってきたけれど、社会の差別や不正に対する憤りを隠して「楽しくしましょうね」みたいなことを言う人になっていた。先生のように大きな優しさと憤りというものを正直に伝えていくことを忘れていたのです。
名越分かります。そういう真っ直ぐな気持ちっていつの間にか忘れてしまうんだな。
上田それで、僕も先生のように、数十年後に誰かが自分のことを思い出してくれるような生き方ができたら本望だなって。そう考えたら、すごく気持ちが楽になれたし、何でも思いっ切りやろうと思えたんですね。

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