日本伝統仏教者のためのマインドフルリトリート

【基調講演3】「仏教における戒律の問題と、マインドフルネスの意義」 その2

蓑輪顕量先生
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早朝、總持寺境内で「マインドフルネス体操」を実践するプラムヴィレッジ僧侶団

仲間たちの重要性

それでは、この「防非止悪」が登場してくるのは、いったい何のためか。それは、サンガの維持のためにということが、まず大きいと考えられます。

インド世界ですと、サンガというのは、4人以上の比丘で構成され、20人が正式なものとされています。それを維持して行くために、日常生活の中で他者から批判されることをなるべく避けようとして作られたものでした。また、悟りを得ていくために、やり易いという側面を持っていることも間違いない事実でしょう。

出家者には、独身の男性と女性の両方、二部サンガがあります。個人ではなかなか難しいけれども、集団で行うことできちんと維持していけるのだということを考えて、お釈迦様は二つのサンガを作られたのだと、私は考えています。

一人で実践していくのは、なかなかたいへんなところもありますので、仲間がいるということの重要性をお釈迦様は意識していたのではないかと思われます。それで仏教は、独身の人たちで構成される集団によって伝授されていく、このような意識が出来上がっていったのです。また、その背景にはインドならではの価値観、すなわちカースト制度の問題もあったことが指摘されています。

これは、現代でも生きています。仏教が伝わるということは、経典が伝播するとか、あるいは仏像が渡来するということではなく。その教えを信仰する人たちの集団が、その地域にできることが、仏教が伝わることだというように、東南アジアの人たちは今でも考えています。ですからサンガは、とても重要な意味を持っているというのがわかると思います。

東南アジア社会ですと、お坊さん達は福田とも呼ばれます。これはお坊さん達に布施をするとその功徳が自分に帰ってくる。これは今の東南アジアのタイとか、ミャンマーあたりに顕著です。

お坊さまたちは、在家の人たちの布施を受けるにふさわしい清らかな存在でなければならないと考えられています。そのような僧侶たちが、世間から批判されるようなことをしていると、清らかなサンガとは言えない訳ですね。ですから、批判されることのないように様々な配慮がなされてきた、そう考えて良いと思います。

2018年11月、ベトナムに帰国を果たしたティク・ナット・ハン師

サンガ集団の運営のルール

少し集団の運営ルールについての話しをしたいと思います。大事な問題は合議で行うということを決めていました。白四羯磨びゃくしこんま白三羯磨びゃくさんこんま白二羯磨びゃくにこんまという手続き法があります。

白四羯磨というのは、大事なことを「こういうことですよ」と申し上げるのを一回やります。その後に、確認のための手続きを、「よろしいですね」というのを三回聞きます。申し上げること一回と確認の作法を三回。一と三を足して、四になりますね。びゃくという言葉をつけて、白四羯磨びゃくしこんまと言います。

白三羯磨びゃくさんこんまの場合は、申し上げることが一回で、確認する作法が二回。白二羯磨びゃくにこんまは、一回申し上げて、確認が一回となります。

三回きちんと確認するというのは、大事なものを決めるときの手続きだとされています。サンガの中の大事な手続きの代表的なものは新規の参入者を認める授戒の儀式です。

10人の正式なお坊さんたちが揃っていて、新しく入りたいというお坊さんがいる。羯磨師こんましと呼ばれる人が、新規参入者に具足戒を授けることを承認しますかと申し上げます。そして、皆さんよろしいですかと聞いて「認めますか?」というのを三回尋ねます。10人の比丘たちが黙視している。この場合、黙っているってことは承認を与えることを意味します。

または、お坊さんたちが、「学処」について二週間に一回集まって、確認の会議をすることを決めました。これは「布薩(ウポーサタ)」と呼ばれています。

二週間に一回、問題がなかったかどうかを確認して、サンガが清浄なものであることを確認するという手続きを仏教教団は作り上げてきました。

ベトナムにあるプラムヴィレッジ本山・慈孝寺に帰られたティク・ナット・ハン師

(次回へ続く)

蓑輪顕量みのわけんりょう
1960年、千葉県生まれ。東京大学大学院教授。東京大学大学院を終了。博士(文学)。愛知学院大学文学部助教授、教授を経て、2010年4月より現職。専門は日本の仏教、仏教思想史。一般書として『日本の宗教』(春秋社、2007)、『仏教瞑想論』(春秋社、2008)、『日本仏教史』(春秋社、2015)、編著に『お経で学ぶ仏教』(朝日新聞出版、2012)、『事典 日本の仏教』(吉川弘文館、2014)などがある。
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