弊社より青山俊董師の『禅のおしえ12か月 つれづれ仏教歳時記』が発刊されました。
それを記念して、一部、抜粋を紹介させていただきます。
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気に入らぬ風もあろうに柳かな
飄逸な絵で知られている博多の仙厓さま(江戸時代・臨済宗)の句である。人生の旅路の間には、心が浮き立つような春風の日もあろう。身を切られるような寒風の夕もあろう。どんな風が吹こうと柳は無心に風のまにまになびき、なびく姿がひとしおに趣を添える。道元禅師の柔軟心を思うことである。
正月の飾りものは門松という言葉があるように、古来から松がおおかたをしめてきたようであるが、歴史をさかのぼると、少なくとも中国、唐・宋代には柳を生け、また旅立ちの餞に柳を結んで贈る習慣があったようである。
その古儀を踏襲してか、茶の湯の世界では初釜の床にしだれ柳を大きく生け、枝を結び、根元に紅白の椿を生ける。
「柳の梢はもとへかえる物なれば、かえるという祝言にあやかる也。昔は切々参る人にたまきをおくり、又柳を結んで与えしと也」と僧兼載(十五世紀末)も語っている。
正月を人生の旅路の中で、心あらためての旅立ちにたとえ、この一年、すこやかであれかしの祈りをこめ、またいかなる風にも柔軟に対応してゆくしなやかさを、と祈らないではおれない。
青山俊董
1933年、愛知県生まれ。5歳の頃、長野県の曹洞宗無量寺に入門。15歳で得度し愛知専門尼僧堂で修行。駒沢大学仏教学部、同大学院を卒業。曹洞宗教化研修所を経て64年より愛知専門尼僧堂に勤務。76年、堂長に。2004年、仏教伝道功労賞受賞。09年、曹洞宗の僧階「大教師」に尼僧として初めて就任。著書に『道はるかなりとも』(佼成出版社)『あなたに贈る人生の道しるべ』『今ここをおいてどこへ行こうとするのか』(共に春秋社)他多数。