弊社より青山俊董師の『禅のおしえ12か月 つれづれ仏教歳時記』が発刊されました。
それを記念して、一部、抜粋を紹介させていただきます。今回は、その最終回。
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君にすすむ手あぶりの火のぬくもりに
ほころびそめし一輪の梅 俊董
E家のおばあちゃんはとても料理が上手で、御法事などでうかがうと、自分が食べることは忘れ、しかも食べているよりもっと嬉しそうに、次から次へと、温かいものは温かいうちにと食卓に運んで下さる。それを召しあがるおじいちゃんの食べっぷりがすばらしい。〝うまいぞ!〟〝よくできたぞ!〟を連発しながら、いかにもおいしそうに召し上がる。
おばあちゃんの料理の腕をあげたのは、このおじいちゃんの食べっぷりにあったな、と思ったことであった。年末・年始とか、何かの行事、〝自分は食べる暇もなく台所に立ち働かねばならない〟と愚痴ってはならない。食べていただく人のあるお蔭で、料理の腕を磨くことができるのだから。
寒い中をお越し下さったあなたに、少しでもぬくもっていただこうと勧めた手あぶりの火で部屋全体が暖まり、同席の人々もひとしくぬくもりをいただき、床の間に活けられた梅もほころびそめたというのである。
道元禅師は「利行は一法なり、あまねく自他を利するなり」と示しておられる。自分のことを忘れ、ただ一筋にそのことに打ち込む。それがそのまま自他ひとしく利することになるというのである。
青山俊董
1933年、愛知県生まれ。5歳の頃、長野県の曹洞宗無量寺に入門。15歳で得度し愛知専門尼僧堂で修行。駒沢大学仏教学部、同大学院を卒業。曹洞宗教化研修所を経て64年より愛知専門尼僧堂に勤務。76年、堂長に。2004年、仏教伝道功労賞受賞。09年、曹洞宗の僧階「大教師」に尼僧として初めて就任。著書に『道はるかなりとも』(佼成出版社)『あなたに贈る人生の道しるべ』『今ここをおいてどこへ行こうとするのか』(共に春秋社)他多数。