社員の幸せを第一とする〝ホワイト企業〟を取材した連載が、
『幸せ企業のひみつ~〝社員ファースト〟を実現した7社のストーリー~』
と題して書籍化されました。
同書の編著者である前野隆司さん(慶應義塾大学大学院教授)に、
『幸せ企業』を作るにはどうしたらよいかを聞きました。
まず自分の周囲から始めてみる
前野隆司・慶應義塾大学大学院教授
──前回、自分の会社を『幸せ企業』にするために、一歩を踏み出そうというお話をいただきました。さっそく取り組みたいという人に、秘訣があったら教えてください
一般社員の方の場合は、〝戦略的に幸せ企業を作り上げていく〟ことがなによりも大切です。
経営者や役職者は立場上、どうしても売上優先で重労働を要求しがちです。「なに言ってんだ! 幸せなんて甘ったれたことを言って!」という上司しかいない場合は、戦略的に、無理のないところからコツコツやることを心がけるのがいいでしょう。
たとえばあなたが5人で行っているプロジェクトのリーダーだったら、まずはその5人が幸せになることから始めるといいですね。チームの5人が幸せになり、それで成績や業績が伸びていったら、上司も経営者も、「いったい何があったんだ!?」「どうやったんだ?」と無視することができなくなります。隣の同僚とコッソリと始めることもできます。
要は、会社を幸せにしたいあまり、上司から疎まれたりして自分が不幸にならないよう注意することです。
そしてチームでも同僚と二人でも、幸せになって結果が出たら、それを広報することも必要です。実は前に紹介したA社では、幸福度も業績も急激に改善したことで「一体全体どうやって!?」ということになり、社内報の取材を受けました(笑)。
一回こうして広報されると、社長も上司もブラックへは戻れません。ですから拡散は、大変に有効な手段です。
──一般社員は小さな幸せから始め、それを徐々に大きくしていく。つまりは「小さく産んで大きく育てる」わけですね。では経営者の方はどうしたらいいでしょう?
ブラック企業といいますが、社員を不幸にしてうれしい社長なんて極めて少ないと思います。業績を上げて社員を幸せにしたいあまり、周りが見えなくてブラック化していくんです。
企業の幸せ化でもっとも手強いのは、実はビジネスが好調で、順調に伸びている企業です。
こうした企業は事業はうまくいっていますから、経営者は最高に幸せなんです。
A社の場合もそうでした。「ウチの会社は成長しているし、社会におおいに貢献している。社員だってやりがいある仕事が出来、同じように満足しているに違いない」と。
ところが幸福度を測ると、社員はみんなこぞって不幸だった。社員に対して、「一緒に社会に貢献しろよ!」と強制になってしまっているからです。思いが一方的なせいで、社員はやらされ感しか持てず、幸福度がとても低かったわけなのです。
こうしたことに気づいていない経営者が、残念ながらとても多い。
こういうタイプの経営者は、業績が急に悪くなったり、社長の欠点を必死にフォローしていた腹心がいなくなって始めて気がつく。「幸せだったのは自分だけ。社員は不幸だったんだ」と。ワンマン企業の幸せ化は、この時点から始まることが多いです。
本書読者の経営者の方がたには、そうなる前に気がついてくれることを切に願います。