―――なるほど。ズラして見ると、視野が大きく広がりますね
視野をさらに広げていくために大切なことは、自分を「PR」することです。
「PR」とは、「Public Relations」の略語で、アメリカで生まれたコミュニケーション技術です。
さまざまな文化と異なる価値観をもつ人たちが共存する社会で、「どのようにして自分の良いところをほかの人に知ってもらうか」「どのようにして相手の良いところを見つけていくか」という発想から生まれています。
自己紹介を積極的にして、自分の置かれた状況を人に伝えてみましょう。これまでは思いつかなかった、大逆転の発想が得られるかもしれません。
私はこれを「ジタバタする」「自分の社会を外科手術する」と呼んでいます。
ホッとできる場所と時間が私の世界を変えてくれた。
―――殿村さんの“ズラす手法”は、どのように生まれたのですか?
母は、私が10歳のときに家を出ていき、父は年収50万円の画家でした。それが理由なのでしょうか、私は小学生時代にいじめられてばかりいて、自殺を考えるほど苦しんでいました。そんなとき、近所で商店を営むおばさんが私の境遇を知って、「ちょっとお店の手伝いをしてくれない?」と声をかけてくれたのです。
私はおばさんの店へ毎日通って、店番や掃除の手伝いをするようになります。わが家からたった数百メートル先に、自分がホッとできる場所と時間ができました。それは、おばさんに自分の境遇を「PR」したからこそ気づいてもらえたともいえます。
この経験は大人になってからも生かされました。大病を患い、離婚し、家も手放し、会社経営も傾き、お先真っ暗よりひどい〝真っ黒〟の状態でしたが、とにかくジタバタして「PR」をしてみたのです。自分の置かれている環境を図式化し、ありとあらゆる関係をズラしていったら、いつの間にか新しい道が開かれていました。
どちらかというと、日本人は欧米人と比べて、自己表現が得意ではありません。しかし、日本にも「腹を割る」という言葉があるくらいですから大丈夫。ほんとうに自分がつらくて誰かに助けてもらいたいと思うのなら、腹を割って「PR」してみましょう。私もそうやって生きてきました。
もし、いまいる場所で自分の役割が果たせていないと感じたら、またズラせば良いのです。ズラしてズラして、自分を必要とする人や仕事と出合って、自信を取り戻してもらえることを祈っています。
京都府生まれ。PRプロデューサー。大手広告代理店勤務を経て、89年、PR専門事務所TMオフィスを設立。92年、法人化。同志社大学大学院ビジネス研究科「地域ブランド戦略」教員、関西大学社会学部広報論講師を務める。「うどん県」や「ひこにゃん」など、地方PRを数多く手がける。著書に『ブームをつくる――人がみずから動く仕組み』『売れないものを売るズラしの手法』など。
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