インタビュー

光あれば影あり。影を乗り越える勇気 建築家・安藤忠雄

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日本を代表する建築家の安藤忠雄さんは、建物の設計だけでなく、瀬戸内海の自然保護や大阪の中之島を中心とした桜並木の植樹などの環境・まちづくり運動にも積極的に取り組んでいる。
その行動力の源は何か――。
ダーナエイジへ安藤さんに自身の生き方を語ってもらった。

安藤忠雄

戦後、日本が奇跡の復興を果たした基は

―――団塊世代のサラリーマンが、一斉に退職し始めました。セカンドライフをどう迎えたらいいか迷う人も多いようですね。

団塊の世代の人たちが青春を謳歌した1960年代は、戦後の日本も青春時代だったんじゃないですかね。
60年安保闘争があって、64年の東京オリンピック、そして70年の大阪万博。20代だった僕はもちろん、この時代は、日本全体が目標に向かって突っ走っていた。とにかく元気がありましたよ。

50年代に外国から日本に来た商社マンや外交官たちは、「日本は戦争に負けたけれど必ず復興する」と言っていたそうです。なぜなら、子どもの目が輝いているし、大人がとにかくよく働くというんですね。日本はそのとおり、奇跡の復興を果たしました。
しかし、日本がおこした最初の奇跡は、明治維新にありました。西洋文化を輸入して短期間に近代化を図った。

その礎になったのが日本人の民度の高さだと言われています。
浮世絵や歌舞伎といった芸術が庶民にまで浸透していた。また、数寄屋の茶室、龍安寺(京都市)の石庭に代表される枯山水など、芸術に親しみ、簡素に美を見いだす繊細な感性を日本人は持ち合わせていた。そうした民度の高さが2度の奇跡を生んだわけです。
しかし、目標をもって前に突き進んでいた日本は、80年代になって豊かさを手に入れた代わりにおかしくなった。バブルがはじける前にヨーロッパやアメリカなどで講演をした後のパーティーの席上で、「日本のメッキははげた」とよく言われました。

その代わり、長寿の評価は高かった。現在、日本人の平均寿命は男性が80歳、女性が87歳です。今の女性はすごいですよね。60歳でも40代と見まごう人もいる。違反建築みたいなもんです(笑)。だけど綺麗なことに間違いない。精神的にも若くて元気がある。
ところが男性はどうでしょう。会社では売り上げのことしか頭になく、定年を迎えるころにはくたくたになっている。僕は男性の文化度が極端に下がっていると思いますね。

女性が元気な秘訣は、やはり感性の豊かさですよ。好奇心旺盛。若いときから音楽、美術などの文化やスポーツなどに親しみ、子育てが一段落してから、再びそれらと出合う。一方の男性は、会社のことしか頭になく、休日はゴルフかごろ寝で妻との会話もない。
そんな男性が定年前になって、「おれの人生は何だったのか」と自分を振り返り始め、「おれは間違っていたのか」と思うわけです。
でも、過去のことにこだわってもしかたがないでしょ。ものごとには必ず光と影がある。人生も同じです。光を求めるなら影をしっかりと見据え、それを乗り越える勇気をもって前に進むしかない。
僕はそのために「動け」「もっと本を読め」と言いたい。日本人のDNAにある高い文化力を目覚めさせればいいんです。

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