インタビュー

思想家・内田 樹 
この時代を生き延びていくために必要なこと

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和気あいあいこそがいちばん効率がいい

――効率化が進み、職場でもだんだんと人間関係が希薄になっている面があります。

人間の思いやり、やさしさって、目には見えないし、数値化できないですからね。「あなたのこと、気にかけていますよ」「あなたを見ていますよ」「応援していますよ」というシグナルが仕事を進めるうえで、どういう効果があるのかは客観的な証拠を以ては証明できません。

だから、数値化されたものしか信用しない人には、そういう人間の情緒が社会的にどれくらい力をもっているのかを理解させることは難しいものです。

でも、上手くいっている組織というのは、自分に課せられた職務を超えてオーバーアチーブする人が引っ張っているわけです。自分がもらう給料の何倍も働いて、給料分の働きがない人の分をカバーしている。そういう人が一定数含まれていないと組織は動きません。

彼らのオーバーアチーブを動機づけているのは組織に対する「忠誠心」や「帰属意識」、仲間に対する「同胞意識」です。そういうセンチメンタルな動機で人は働いている。「これだけの給料をもらったから、これだけの労働をする。それ以上はしない」というほうが合理的に見えますが、実際には潜在能力が開花するのは、自分以外の誰かのために働くときです。

世界に類例を見ない日本の高度経済成長を駆動したのもかなりの程度まで感情的なものによります。国土の再建や国際社会への復帰など、日本人としてのプライドにかけて身を粉にして働いた。もらう給料の額だけ働いたというわけではありません。

成果主義が失敗するのは、自己利益を求め、処罰を恐れて努力するという薄っぺらな人間観に基づいているからです。人間が組織のために最も高い能力を発揮するのは、弱いメンバーを支援するときです。非利己的な、つまりは利他的な動機で働く人間のほうが、利益につられて働く人間よりも質の良い仕事をする。それは、誰もが経験的に当たり前のこととわかっていると思います。

他人を押しのけて利己的に振る舞うという前提で組織を形成すれば、組織の力はどんどん低下していく。いま、企業は人件費のコスト削減のために非正規雇用の人を増やしています。それでは高いモチベーションを維持して、創意工夫を凝らすことはあり得ません。

――成果ばかりを追い求めた結果、肝心なものが抜け落ちてしまったのですね。

そうですね。組織にいる一人ひとりの能力を最大化しようとしたら、峻厳な勤務体制を敷いたり、細かなルールを設けたりしてうるさく管理するよりも、どうしたら人が機嫌よく働けるかに知恵を絞ったほうがいい。管理部門に余分な資源を割かず、現場に権限を委譲して、「これ、お願い」「はいよ」という感じで自由に物事が進むようにしたほうが圧倒的に合理的だし、生産性も高い。

がんばれる人はがんばる。さまざまな理由でがんばれない人も仲間なんだから、みんなで支援する。トップが「責任はオレが取るから、みんなは好きにやってくれ」という〝ゆるい組織〟のほうが優れて創造的な仕事をする。それは歴史が証明しています。

――仕事では、ルールにがんじがらめになってしまうことが多々あります。

効率化や合理化というのは要するに「役立たないものは排除する」という形を取ります。けれども、実際に組織を生き生きとさせているのは、意味のよくわからない「儀礼」や「慣習」や「センチメンタルな動機」なのです。意味のないものは排除する、有用なものしか存在させないという〝合理的〟な組織は殺伐として、むしろ人間の創造性を損ないます。非人間的で効率的な組織は必ず非効率的なものになる。

というのは、どこでも最終的に価値を生み出すのは生身の人間だからです。生身の人間はどういうときに元気になり、どういうときに創造的になり、どういうときに献身的になるのか。それについては、豊かな経験知の蓄積があるのです。なぜ、それを活用しないのかと思います。

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