いまこそ、先人の知恵を発揮するとき
――情のあるほうが、物事は上手くいくということですね。
先ほどもふれましたが、人間が最も高い能力を発揮するのは、組織のなかに「この人を助けてあげなければ」と感じさせる「弱い人」がいるときです。
映画『七人の侍』に登場する勝四郎は最年少で、腕も立たない。でも、彼がいるおかげで集団のパフォーマンスは逆に高まっていく。それは全員が「若くて未来のある勝四郎だけは生き残らせなければならない」と暗黙のうちに合意しているからです。この若者を守り、育てるという教化的な活動であとの6人は結束する。
つまり、いちばん弱い人(例えば、子ども、老人、妊婦、病人など)を守り、助けることを軸として設計された組織の方が、“強者連合的”な組織よりも高いパフォーマンスを発揮する。ハリウッドのあらゆる“パニック”映画はその物語原型を飽きずにくり返していますが、それは人類の叡智としての伝承でもあるのです。
――支え合う雰囲気が、日常生活のなかにあることが大切なのですね。
信頼や思いやり、やさしさや労りなど、競争と成果主義のなかで捨ててきたものをあらためて見直すべきだと思います。雇用も社会福祉も保険や年金も、これからはますます不確かになります。介護や育児などの問題をお金で解決できないとなったら、助け合って生きるしかない。自己利益だけを考えていたのでは、生き延びていくことができません。これからは先人から伝えられてきた相互扶助・相互支援の知恵を発揮しなければ生きられない。そんな時代になるでしょう。
1950年、東京都生まれ。東京大学文学部仏文学科卒業。神戸女子大学名誉教授。凱風館館長。専門はフランス現代思想、映画論、武道論。2007年、『私家版・ユダヤ文化論』で第6回小林秀雄賞、10年、『日本辺境論』で第3回新書大賞、11年に第3回伊丹十三賞を受賞。近著に『日本の覚醒のために』(晶文社)。
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