悩み相談

「愛犬との別れを思うと悲しくなります」 答える人:プラユキ・ナラテボー

プラユキ・ナラテボー
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【編集部注】「仏教的カウンセリング」では当ダーナネット編集部が公募した「悩み相談」に解答をしていただいております。
ご相談者の許可のもと編集の上で掲載しています。ご本人の希望で名前は匿名とさせていただきます。

「飼っている犬が10歳をすぎました。
ふとした瞬間に『いつかは亡くなってしまうんだな』という思いがわいて、
今は元気なのに悲しくなってしまいます。
先のことを心配しすぎるのはおかしいでしょうか? 」

仏教には「愛別離苦(あいべつりく)」という言葉があります。愛する者と別れる、離れ離れになるということは誰にとっても苦しいことだ、という真理です。たとえそれが犬のような動物であっても、長年一緒に過ごし愛着を感じていれば当然、別れはつらく悲しいものです。

しかしあなたの場合、今現在飼っている犬は元気であるのにもかかわらず、「いつかは亡くなってしまうんだな」という思いがわいて「悲しくなってしまう」とのこと。まだ来ていない先のことを心配しすぎているようにもお見うけいたします。

ところで、もしあなたが心配にはまり込んで悲しみにくれていたら、愛犬くんは一緒にいて楽しいでしょうか。目の前で元気に尻尾を振ってあなたに愛嬌を振りまいている彼の方には目もくれず、あなたが心に描いている想像の犬のことを気にかけていたら、愛犬くんもきっと寂しい思いをしてしまうのではないでしょうか。

「まだ来ぬ未来を思い煩うことなかれ、今ここでなすべきことを熱心にせよ」というブッダの言葉があります。心を未来にさまよわせて今をおろそかにしてしまうことを戒めた言葉です。あなたの愛犬くんはいまここであなたと一緒にいることを喜び、交流を楽しみたいと思っていることでしょう。したがって、できるだけ未来を心配することなく、今ここに心を置いて、愛犬くんとの交流を楽しんであげてください。

未来を心配することなく、今ここに心を置いて――

作画・鈴木勝美(ざぼん)

ところで、やがて誰の身にも訪れる死は避けられないことも事実であり、そうした未来に起こる事態がふと脳裏をよぎるというのも自然なことであり、おかしいことではありません。ただ問題は、そうしたイメージが心に沸き起こったとき、そのイメージに心を奪われてどっぷりと悲しみに浸りきってしまうことです。

「メメント・モリ(死を想え)」という言葉があります。私たちはいつまでも変わらない日常があると思い、何事も先延ばしにしてしまう傾向があります。この言葉は、そうした私たちにやがて訪れる「死」という事実を突きつけて、「今ここに悔いを残すことなく精一杯生きよ」と促すメッセージです。

もしあなたの脳裏に愛犬くんの死のイメージがよぎったらよぎったで、「死は避けられない。だからこそ、今こうして出会えていることに感謝して、このひとときを大事にしていこう!」と気持ちを切り替え、今ここで目の前にいる愛犬くんに愛情をいっぱい注いであげてみてはいかがでしょうか。

プラユキ・ナラテボー

 

プラユキ・ナラテボー
1962年、埼玉県生まれ。上智大学哲学科卒業。大学在学中よりボランティアやNGO活動に深く関わる。
タイのチュラロンコン大学大学院に留学し、農村開発におけるタイ僧侶の役割を研究。1988年、瞑想指導者として有名なルアンポー・カムキアン師のもとにて出家。以後、自身の修行のかたわら、村人のために物心両面の幸せをめざす開発僧として活動。またブッダの教えをベースにした心理療法的アプローチにも取り組み、医師や看護師、理学療養士など医療従事者のためのリトリート(瞑想合宿)がスカトー寺で定期的に開催されている。
近年は、心や身体に問題を抱えた人や、自己を見つめたいとスカトー寺を訪れる日本人も増え、ブッダの教えをもとにしたサポートを行っている。日本にも毎年招かれ、各地の大学や寺院での講演、ワークショップから、有志による瞑想会まで、盛況のうちに開催されている。

プラユキ・ナラテボー師 よき縁ネット https://blog.goo.ne.jp/yokienn
〈書籍情報〉
「気づきの瞑想」を生きる タイで出家した日本人僧の物語
著者:プラユキ・ナラテボー
出版社:佼成出版社
定価:本体1,800円+税
発行日:2009年8月
〈書籍情報〉
「気づきの瞑想」で得た苦しまない生き方
著者:カンポン・トーンブンヌム
監訳:プラユキ・ナラテボー
出版社:佼成出版社
定価:本体1,400円+税
発行日:2007年11月
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