【編集部注】「仏教的カウンセリング」では当ダーナネット編集部が公募した「悩み相談」に解答をしていただいております。ご相談者の許可のもと編集の上で掲載しています。ご本人の希望で名前は匿名とさせていただきます。
去年の暮れから手動瞑想のおかげでメンタル系疾患の薬を一切飲まなくてよくなりました。今では、世界が生き生きと感じられています。ただ、今現在は、家族とかなり価値観が違ってきてしまい、その都度、瞑想的対応したりと心がけているのですが、ちょっと実家から出たくなってきました。とくに、同居の家族(他に3人と住んでいます)の一人と同じスポーツをしているのですが、その際にその相手の視線や態度、アドバイスなどが気になり、心からそのスポーツを楽しめないでいます。他のサークルにも参加しているので、そこでは楽しいですが。
それと、他の家族3人とも「こうしなければならない」という僕への過干渉が強く、いくら瞑想で鍛えても、その3人への対応をしていると時間も、やりたいことも犠牲にしてしまうところがあります。まだ、仕事も助走段階で、これからですが、目の疲れなどもあっても少しずつ実家から外へ出たい、自分のやりたいことを自由にやりたい、恋愛もスポーツも仕事も楽しくしたいという思いが溢れてきました。
一人暮らしの件も少しずつ準備している途中です。ただ、両親が後期高齢者ということもあり、またその一人は持病も抱えていたり、疲れやすかったりするので、実家から出ていいのかという気がかりや後ろめたさもあります。そこで、この場合自分の気持ちに素直に一度一人暮らしに向けて行動した方がいいのか、やはり家族3人とこのまま暮らした方がいいのかアドバイス頂けないでしょうか? よろしくお願い致します。
ちなみに、瞑想は朝30分(場合によっては10~20分の時もあります)続けており、少しずつ手放しができるようになってきました!
質問者:エーちゃん
「ぜひ瞑想はそのまま続けていかれるとよろしいかと思いますよ」by ナラテボー
作画・鈴木勝美(ざぼん)
手動瞑想の実践によってメンタル系疾患の薬を断薬でき、世界が生き生きと感じられるようになったとのこと、よかったですね。エーちゃんの努力の賜物だと思いますよ。
たしかに手動瞑想はオープンハートで、今ここのリアルに立ち戻ってくることをベースに据えておりますので、他の瞑想法に比べて副作用が少なく安全で、うつや神経症、統合失調症のような心の病を持った人でも実践が可能です。また実際に、手動瞑想で精神的な病が寛解した人たちも大勢おりますので、こうした人たちにも自信をもってお勧めできる方法ですね。
エーちゃんは、今もなお瞑想を続けておられ、「少しずつ手放しもできるようになってきたとのこと、いい感じですね。精神的な病であれ、日常生活で生ずる様々な苦悩であれ、その根本的な要因は執着にある、というのが仏教的な見立てです。「手放し」はこうした執着の軽減に最も有効であり、また仏道の目的であるあらゆる苦悩の滅尽を促してくれますので、ぜひ瞑想はそのまま続けていかれるとよろしいかと思いますよ。
ところで、タイ語にタム・チット(心的作業)とタム・キット(実務作業)という言葉があります。タム・チットは、瞑想などの実践により執着を手放し、自らの心を整え、洞察を深めていく作業。一方、タム・キットは、現実に生じてくる様々な問題をなおざりにせず、その解決のために具体的な行動をとったり、相手との適切なコミュニケーションを図っていったりすることです。仏道修行で心の成長を促していくにおいても、日常生活に生じてくる様々な問題を解決していくにあたっても、この二つの作業を両立して進めていくことが、より早期に望ましい結果を出していくことにつながります。
エーちゃんの場合、タム・チットについてはその調子で瞑想を続けていけばOKです。一方、タム・キットの方ですが、相談内容を読んでみての感想ですが、家族との関係が密になり過ぎて、お互いに窮屈な思いをしているようにお見受けします。
たしかに心の病に苦しんでいる真っ最中においては、家族のサポートや見守りが必要だったでしょうが、すでに心の病も治り、35歳という年齢で、積極的に社会と関わりたいという意欲がふつふつと湧いてきているわけですから、ぜひその流れを止めずに、一人暮らしを始めて自立の道を歩んでいくことをお勧めしたいと思います。そして、ぜひ社会的にしっかりとやっていける実力を培っていかれてください。
ご両親が高齢者で持病を抱えて疲れやすいので、実家を出ていくのが気がかり、とのことですが、そういうことであれば、まずは自宅からそれほど離れていない場所にアパートを借り、定期的にご両親のもとを訪れ、その際に全力で愛情を込めたサポートをしてあげたらよろしいのではないでしょうか。
人生は無常です。今回、実家から出たからといって、もう一生実家に住むことはないとは限りません。結婚などして実家に戻ることも当然あるかもしれません。エーちゃんがこの機会に親に依存しないでしっかりと生きていける実力を培っておきさえすれば、今後どんな状況が起こってこようとも、自信を持って対応できることになるでしょう。
以上、私なりの見解を一通り述べさせていただきました。あとはエーちゃんご自身でしっかりと吟味され、自らの意志で、次の一歩を具体的に歩みはじめていただければと思います。応援しています!
プラユキ・ナラテボー
タイのチュラロンコン大学大学院に留学し、農村開発におけるタイ僧侶の役割を研究。1988年、瞑想指導者として有名なルアンポー・カムキアン師のもとにて出家。以後、自身の修行のかたわら、村人のために物心両面の幸せをめざす開発僧として活動。またブッダの教えをベースにした心理療法的アプローチにも取り組み、医師や看護師、理学療養士など医療従事者のためのリトリート(瞑想合宿)がスカトー寺で定期的に開催されている。
近年は、心や身体に問題を抱えた人や、自己を見つめたいとスカトー寺を訪れる日本人も増え、ブッダの教えをもとにしたサポートを行っている。日本にも毎年招かれ、各地の大学や寺院での講演、ワークショップから、有志による瞑想会まで、盛況のうちに開催されている。
「気づきの瞑想」を生きる タイで出家した日本人僧の物語
著者:プラユキ・ナラテボー
出版社:佼成出版社
定価:本体1,800円+税
発行日:2009年8月
「気づきの瞑想」で得た苦しまない生き方
著者:カンポン・トーンブンヌム
監訳:プラユキ・ナラテボー
出版社:佼成出版社
定価:本体1,400円+税
発行日:2007年11月
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