【編集部注】「仏教的カウンセリング」では当ダーナネット編集部が公募した「悩み相談」に解答をしていただいております。ご相談者の許可のもと編集の上で掲載しています。ご本人の希望で名前は匿名とさせていただきます。
いつもプラユキさんの回答を拝読し、心が楽になり感謝しております。
3歳になる息子を保育園に朝預けるとき、ふと寂しそうな表情になり、顔を見ないで部屋に入ってしまうことがあります。
朝は特に時間に余裕がなく、道中花や石などを眺めている息子に「行くよ」と追いたててしまうこともしばしば、反省しています。
仕事を辞めるという選択は考えておらず、親としてどのように息子に接したら皆が幸せに過ごせるでしょうか。
質問者:るる
「具体的には、以下の三点をちょっと心がけてみてください」by ナラテボー
作画・鈴木勝美(ざぼん)
るるさん、こんにちは。メッセージを読ませていただき、お子さんをお持ちのお母さんたちの毎朝の「ドタバタ劇」の光景が目に浮かんでくるようでした。
世のお母さんたちはそうやって愛する息子や娘との出会いと別れを日々繰り返されているんだな〜と再認識したと同時に、お仕事を持ちながら子育てをされているお母さん方のご苦労たるや、さぞかしかと思いました。
たしかにメッセージにもありましたように、子どもたちは保育園に預けられるときのような、大人の感覚でいえば「またすぐ会えるのに」といったシーンでも、まるで一生の別れをするかのように寂しがったり、何の変哲もない路傍の花や石に対しても、あたかも美しい宝石に魅せられているかの如くにじっと目を凝らして見ていたりしますよね。
おそらく、記憶力や思考力が未発達な幼い子どもたちにとって、世界は目まぐるしく転変しており、そうした世界を「今ここモード」で一瞬一瞬強烈に感じ、周りの人や物と一期一会の新鮮な出会いを重ねているのかもしれませんね。
るるさんのメッセージに、「時間に余裕がなく、息子を追いたててしまうこともしばしば」とありましたが、子どもが自分の思うように動いてくれずにイライラ……それで思わず声を荒げて後悔や自責の念に苛まれるというお母さんの話、よく耳にします。
ところで、るるさんの場合、当たり前な日常のルーチンになって見落としてしまいがちなこと、例えば、保育園に預けるときに息子さんが見せる「ふと寂しそうな表情」を見逃さない感性をお持ちで、さらには息子さんへの接し方を変え、親子関係にとどまらず皆が幸せに過ごせたらとの願いもあるとのことで、とても前向きな姿勢がメッセージから伝わってまいりました。
さて、そんなるるさんに私からのオススメは、日常生活の中に「気づきの時間(マインドフルネスタイム)」を盛り込んでいただくことです。具体的には、以下の三点をちょっと心がけてみてください。
1. いつもより少し早めに起床したり、ちょっと早めに家を出てみましょう。
たった5分でも前倒しで早めに始められると、何をするにおいても余裕が生まれてきます。
2. 五感を開いて「今ここ」で起こっていることに気づきを伴わせてみましょう。
後先のことを考えすぎず、五感を開いて、今ここで目に入ってくるもの、聞こえてくる音、香りや感触をじっくり味わってみる時間を持ってみましょう。私たち大人が忘れていた子どもたちの感性が蘇ってくるかもしれません。
3. 自分の手足などの身体の動きや心の動きに気づいてみる練習(気づきの瞑想)をしてみましょう。
今ここの自分自身の心身への気づきが育くまれていくしたがって、心も落ち着きを増し、どんな状況にあっても焦らずに、今ここで自分がどう振る舞ったら一番良いか、相手にどんな言葉を伝えたら自他共に幸せになっていけるかなど、明晰な判断ができるようになってきます。
以上の三点を日常生活の中に盛り込んでいくことで、時間にも余裕が生まれ、心は落ち着きを増し、たとえ短い時間でも息子さんの思いに寄り添っていくことができて親子共に満たされてくることでしょう。また、そうしたことがきっと日頃の人間関係やお仕事の方にも反映され、「皆と幸せに過ごす」というるるさんの願いが叶っていくことと思います。
応援しています!
プラユキ・ナラテボー
タイのチュラロンコン大学大学院に留学し、農村開発におけるタイ僧侶の役割を研究。1988年、瞑想指導者として有名なルアンポー・カムキアン師のもとにて出家。以後、自身の修行のかたわら、村人のために物心両面の幸せをめざす開発僧として活動。またブッダの教えをベースにした心理療法的アプローチにも取り組み、医師や看護師、理学療養士など医療従事者のためのリトリート(瞑想合宿)がスカトー寺で定期的に開催されている。
近年は、心や身体に問題を抱えた人や、自己を見つめたいとスカトー寺を訪れる日本人も増え、ブッダの教えをもとにしたサポートを行っている。日本にも毎年招かれ、各地の大学や寺院での講演、ワークショップから、有志による瞑想会まで、盛況のうちに開催されている。
「気づきの瞑想」を生きる タイで出家した日本人僧の物語
著者:プラユキ・ナラテボー
出版社:佼成出版社
定価:本体1,800円+税
発行日:2009年8月
「気づきの瞑想」で得た苦しまない生き方
著者:カンポン・トーンブンヌム
監訳:プラユキ・ナラテボー
出版社:佼成出版社
定価:本体1,400円+税
発行日:2007年11月
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