悩み相談

「好奇心も手放す必要がありますか?」 答える人:プラユキ・ナラテボー

プラユキ・ナラテボー
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【編集部注】「仏教的カウンセリング」では当ダーナネット編集部が公募した「悩み相談」に解答をしていただいております。
ご相談者の許可のもと編集の上で掲載しています。ご本人の希望で名前は匿名とさせていただきます。

「いつもありがたいお話をありがとうございます。私は好奇心のあり方について悩んでいます。お釈迦様の教えでは、あらゆる欲望を理解し、ひとつひとつ手を放すことで苦悩から開放されると拝見しました。ならば、ある種の欲望である好奇心も手放さなくてはならないのでしょうか。私は人一倍、好奇心が強い方で、確かにそれ故の苦しみも味わいましたが、しかし、それ故の楽しみも確かにありました。好奇心を手放して生きるのは少し寂しいような気もします。師はどのようにお考えでしょうか。」

なるほど、質問者さんは好奇心を欲望の一種とみなしており、ところで、ブッダは、欲望は手放しなさいと教えているのであるから、教え通りに手放した方がいいと思う。しかし、それも寂しい気がして、心に葛藤が生じている、ということですね。

私の意見を率直に述べれば、好奇心を手放す必要はない。好奇心を最大限に活用してほしい、です。

最初に確認しておきたいことは、好奇心イコール欲望ではないということです。
辞書によれば、「好奇心とは、物事を探求しようとする根源的な心。自発的な調査・学習や物事の本質を研究するといった知的活動の根源となる感情をいう」と定義されています。

ブッダが推奨したものとして、「択法ちゃくほう」というものがあり、これは「物事のありようをしっかりと精査、究明していき、本質を明らかにしていくこと」。また「如理作意にょりさい)」は、「物事を理に沿って、しっかりと熟考していき、真理を明らかにしていくこと」を意味します。

これらは上記した好奇心の定義にほとんど合致している、あるいは好奇心によってもたらされるものである、と言えるのではないでしょうか。

また、ブッダが悟りに至れたのも、「苦しみからの脱却」というテーマについて、人並み外れた好奇心を抱き、それを解明するために、微に入り細を穿ち、自分自身をとことん詳細に探求していった賜物であったと言えると思うのです。

他にも、好奇心の機能として、未知なるものに遭遇し恐怖心が襲ってきた際に、好奇心と探求によって、そうした恐怖心を克服できるということもあります。

ということで、好奇心イコール欲望ではなく、物事の道理を明らかにし、人間の苦悩を軽減する役割を果たす素晴らしい可能性がある。それゆえ、好奇心を手放す必要はない、最大限に活用してほしい、というのが私の見解です。

ところで、好奇心の対象については、たしかに吟味していく必要があるかもしれませんね。例えば、「思考」についても、有益な思考を使いこなせれば、それは自他共に価値をもたらすものとなるが、無駄な思考に溺れていけば、それは自らを苦しめるだけのものとなってしまう。それと同様、好奇心もそれが単に自己満足的に快楽を求めるだけの探求であったら、何の価値ももたらされず、無駄に消耗するだけに終わってしまうでしょう。一方、これまで述べてきたような好奇心であれば、自他の抜苦与楽を促進する価値あるものとなりましょう。

好奇心の対象については吟味が必要――

作画・鈴木勝美(ざぼん)

 

質問者さんは「好奇心が強い方」とのことですので、おそらくは様々な好奇心が生じてくることと思います。それらをすべて一緒くたに手放す必要はなく、それは自他の抜苦与楽に活用していけるものであるか、それとも単なる自己満足的な好奇心なのかをしっかりと吟味して取捨選択し、価値の創出へと繋げていける好奇心であれば、ぜひとことん探究されて、人々に、そして社会に安寧をもたらしていただければと思います。

 

プラユキ・ナラテボー

 

プラユキ・ナラテボー
1962年、埼玉県生まれ。上智大学哲学科卒業。大学在学中よりボランティアやNGO活動に深く関わる。
タイのチュラロンコン大学大学院に留学し、農村開発におけるタイ僧侶の役割を研究。1988年、瞑想指導者として有名なルアンポー・カムキアン師のもとにて出家。以後、自身の修行のかたわら、村人のために物心両面の幸せをめざす開発僧として活動。またブッダの教えをベースにした心理療法的アプローチにも取り組み、医師や看護師、理学療養士など医療従事者のためのリトリート(瞑想合宿)がスカトー寺で定期的に開催されている。
近年は、心や身体に問題を抱えた人や、自己を見つめたいとスカトー寺を訪れる日本人も増え、ブッダの教えをもとにしたサポートを行っている。日本にも毎年招かれ、各地の大学や寺院での講演、ワークショップから、有志による瞑想会まで、盛況のうちに開催されている。

プラユキ・ナラテボー師 よき縁ネット https://blog.goo.ne.jp/yokienn
〈書籍情報〉
「気づきの瞑想」を生きる タイで出家した日本人僧の物語
著者:プラユキ・ナラテボー
出版社:佼成出版社
定価:本体1,800円+税
発行日:2009年8月
〈書籍情報〉
「気づきの瞑想」で得た苦しまない生き方
著者:カンポン・トーンブンヌム
監訳:プラユキ・ナラテボー
出版社:佼成出版社
定価:本体1,400円+税
発行日:2007年11月
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