「二元論の殻をぶち破るのに苦労しました」と語る森政弘氏
――それでは、森先生にお伺いいたします。仏教は信仰ですか? 哲学ですか? あるいは科学ですか?
森 全部です。
信仰という言葉があるけれど、これは新しい。昔で言えば信心、そういう意味で言えば明らかに仏教は宗教です。それを裏付けている学問があっておそらく他の宗教、キリスト教だったら神学がありますね 。
たとえば、アウグスティヌスの神学。ああいうものからは、神の存在というものをなんとか証明しようとする努力が見られるわけです。
仏教の哲学――仏教は神をたてないので神学ではなく哲学――はそうではないです。深い哲学、他の哲学が太刀打ちできないくらい深いものを持っています。そういう意味では仏教は哲学です。
科学と言えば、もちろん二元論も認めるわけですから科学です。このように仏教は、非常に合理的にできています。
――森先生にとって仏教の魅力とは?
森 まず気持ちがいいです。心が休まる。ストレスが消える。説得力がある。
特に漢文のお経の偈頌(詩)のところを見ると綺麗ですね。まぁ、言い出したらきりがないです。
――そういう仏教の中で、今一番惹かれる思想は何ですか?
森 今一番惹かれるのは『臨済録』(※)です。読み応えがあります。臨済和尚はすごいですよ。
※『臨済録』:臨済義玄(?-866、一説に867)の語録。弟子の三聖慧然による編纂とされる。今日まで広く流布し「語録の王」と呼ばれる。
――具体的に、その魅力について教えてください。
森 「随所に主となる」(どんな場合でも主体性を失うな)、「家舎を離れて途中に在せず」(出張中でも、自宅にいると思え)、など、金言の宝庫です。
わたしは、坐禅で見性したりとかいうことはありませんし、ちょっと坐ったり、禅の書物をかじったりするだけですが。
――禅の思想から我々が学ぶべきものはありますか
森 先ほども話題に出ましたが、「一つ」ということを学ばなければいけないですね 。正反対のものが一つに合わさっているという真実を。端的に言うと、『般若心経』の「即」です 。
「大蔵経」の中から、一字だけ持って来いといわれたら、「即」を持ってきたら合格です。「即」というのは仏教では正反対のものを結びつけるものです。
色即是空、空即是色――「是」の語を省けば、色即空、空即色。鳩摩羅什が訳した『摩訶般若波羅蜜経』(大品般若経)だと「是」が入っていませんから、色即空、空即色です。
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