【編集部注】「仏教的カウンセリング」では当ダーナネット編集部が公募した「悩み相談」に解答をしていただいております。
ご相談者の許可のもと編集の上で掲載しています。ご本人の希望で名前は匿名とさせていただきます。
「夫に肝臓がんが見つかりました。リンパや腰骨まで転移していました。夫はごく初歩的な生老病死・四苦八苦などの知識や理解は少しありますが、瞑想は未経験で、何度か誘ってみましたが断られました。
今、死に直面している夫を心安らかに看取ってあげるために、私に何が出来るでしょうか。
私自身は慈悲の瞑想とヴィパッサナー瞑想を少しづつ実践しています。死に行く夫が心落ち着ける書籍などもお教え頂ければ幸いです。どうかよろしくお願いします。」
“気づき”の実践で「よき看護者」に
作画・鈴木勝美(ざぼん)
長らく連れ添ってこられた旦那さまの病の苦しみ、そしてやがて訪れる死に直面して苦しむ姿を見ながらのご看病、さぞかし気苦労も多いことかと存じます。
ブッダはこんな言葉を述べています。
「私の世話をしようと思うのであれば、病者の世話をするがよい。もし、サンガの仲間で病に伏す者がでたなら、死に至るまで無条件で看病し合いなさい」
この言葉には、ブッダの病者に対しての深い気遣いが感じられますね。ブッダは「善き友を持つこと」をとても重視していました。ときには、「善き友を持つことは、修行のすべてである」とも言い切っています。善き友とは、修行仲間であるにとどまらず、仲間が病に伏した際には、死に至るまで共にあり、無条件に看病する、そんな友であることを望まれていました。
質問者さんも旦那さんと長い月日、苦楽を共にする「善き友」であり続けてきたことと思います。ぜひブッダの言葉にしたがい、旦那さんが死に至る最期の瞬間まで、心を尽くして看病をされ、看取っていただければと思います。
さて、では具体的にどんな看護をしていったらいいでしょうか?
ブッダは、「よき看護者としての5条件」として、具体的に説かれています。
① 薬を調合したり、調達することができる
② 病気によいことと悪いことを知り、悪化を予防し快復に向かわせられる
③ 慈しみの心から看病し、見返りを求めない
④ 糞尿や唾や痰や嘔吐物などを取り除くことを厭わない
⑤ 時宜に応じて法にかなった話をし、理解させ、励まし、喜ばせられる
①と②は病についての理解と適切な対応で、身体面についての「治療(cure)」、
③〜⑤は病者に対する心理面の気遣いに重点が置かれる「ケア(care)」に分類できます。終末期など回復が難しい状態であるほど後者のケアが重要になります。また、そうしたケア能力向上にはケアする側の心の安定が鍵になりましょう。
そこでお勧めしたいことは、質問者さんご自身、瞑想などをしっかりされて、自分の心を落ち着かせ、ブッダの示された「よき看護者」として旦那様と触れ合っていかれることです。そうした心持ちで必要なケアをされていかれれば、旦那さんもきっと心満たされ、安心して死に逝くことができると思います。
最後に、参考になる書籍を2冊、動画を1本、あげておきたいと思います。
・井上ウィマラ著「人生で大切な五つの仕事―スピリチュアルケアと仏教の未来」(春秋社)
・カンポン・トンブンヌム「『気づきの瞑想』で得た苦しまない生き方」(佼成出版社)
・[youtube動画] カンポン・トーンブンヌム「死・それは命の最後の授業」
三宝のご加護により、旦那様が心穏やかに終末期を過ごされ、心安らかに死出の旅に赴けますようお祈り申し上げます。
プラユキ・ナラテボー
タイのチュラロンコン大学大学院に留学し、農村開発におけるタイ僧侶の役割を研究。1988年、瞑想指導者として有名なルアンポー・カムキアン師のもとにて出家。以後、自身の修行のかたわら、村人のために物心両面の幸せをめざす開発僧として活動。またブッダの教えをベースにした心理療法的アプローチにも取り組み、医師や看護師、理学療養士など医療従事者のためのリトリート(瞑想合宿)がスカトー寺で定期的に開催されている。
近年は、心や身体に問題を抱えた人や、自己を見つめたいとスカトー寺を訪れる日本人も増え、ブッダの教えをもとにしたサポートを行っている。日本にも毎年招かれ、各地の大学や寺院での講演、ワークショップから、有志による瞑想会まで、盛況のうちに開催されている。
「気づきの瞑想」を生きる タイで出家した日本人僧の物語
著者:プラユキ・ナラテボー
出版社:佼成出版社
定価:本体1,800円+税
発行日:2009年8月
「気づきの瞑想」で得た苦しまない生き方
著者:カンポン・トーンブンヌム
監訳:プラユキ・ナラテボー
出版社:佼成出版社
定価:本体1,400円+税
発行日:2007年11月
バックナンバー「 悩み相談」