【編集部注】「仏教的カウンセリング」では当ダーナネット編集部が公募した「悩み相談」に解答をしていただいております。
ご相談者の許可のもと編集の上で掲載しています。ご本人の希望で名前は匿名とさせていただきます。
「あまり周囲の人には言えないのですが、20年も前にフラれた相手が、いまだに夢に出てきます。
20年のあいだ、夢でフラれ続けているのです。
実生活ではほとんど思い出さないし、未練もないつもりなのに…。
もしかして自分はものすごく執念深いのでしょうか。」
「夢って実は学びの宝庫なんです」by ナラテボー
作画・鈴木勝美(ざぼん)
夢って面白いですね。質問者さんの夢のように、実際にはもうしばらく会っていない人、あるいはもう亡くなられた人でさえも、夢の中では、まるで現実に会っているかのように臨場感たっぷりに出会い、会話を交わし、ときには奇想天外なドラマが展開したりするわけですからね。
まずはどんな夢を見ても、いたずらに深刻になる必要はありせん。現実の人生とはまた異なるもう一つの人生を生きられるわけですから、存分に夢を楽しんでいったらいいでしょうね。
それから、夢って実は学びの宝庫なんです。近刊の藤田一照氏との対談書「仏教サイコロジー 〜魂を癒すセラピューティックなアプローチ」(サンガ刊)で詳述していますが、夢は私たちの無意識の心の傾向を示しており、それゆえに自身の現在抱えている課題について具体的なヒントを得ることができるのです。
さて、質問者さんの夢ですが、20年前にフラれた相手が、いまだに夢に出てきて、夢の中でフラれ続けている、未練もないつもりなのに…とのことですね。
まず、夢の文法を理解しておくといいでしょう。夢は象徴的なイメージやストーリーを用いて、夢見者の今の気分や感覚を「今の私の気持ち、まるで〜のような感じ」という風に表しています。夢を見ながら味わった感情は過去ではなく、その夢を見た現時点での感情です。それを過去に体験したシーンやアイテムを組み合わせて表現しているのです。
ですからその夢は、過去にフラれた特定の相手への執着が問題なのではなく、現在あなたが感じている何らかの喪失感が、20年前にフラれた時の気持ちに近いということです。また、夢の登場人物は自身の一部でもありますので、自分が自分をフっているということになり、それゆえ、自己に対する信頼感の喪失、すなわち自信の喪失がテーマということになるでしょう。
たとえば、身近な人との関係をもっと深めたいと思いながらも、自信が持てず、素直に気持ちを相手に伝えられてなかったりしませんか? あるいは、「本当に自分は愛されているのだろうか」「愛されるに値する人間なのだろうか」などと、自己不信に陥ったりしてはいないでしょうか?
もしそのようなことがありましたら、以下に述べる適切な方法で、自己信頼や自己肯定感を回復していかれることをお勧めします。
第一に、あなたという存在を丸ごと受け入れて話を聞いてくれる善友と交わることです。自己信頼感を育むためのステップとして、他者から全面的に信頼されるという体験によって、自己信頼の基盤が培われます。
第二に瞑想です。瞑想を通して、心に生じてくる現象に対して『何が起こってきてもオッケー』と迎え入れる態度を培っていきます。そして、実際に生じてきた現象すべてをあるがままに受容していくことを繰り返すことで、どんどん自己信頼感が育まれていきます。
第三の方法は、人間関係のあり方を、実際に変えていくことです。まず、夢に出てきた相手との関係を振り返ってみましょう。きっと、「やり直したいこと」が見つかるのではないでしょうか? 例えば、日頃からもっと腹を割って本音で話し合いたかったとか、「ありがとう」など感謝の言葉をもっと素直に口にしておきたかったとか……。ぜひそうしたことを、今ここで出会う人との一期一会のコミュニケーションにおいて実践していきましょう。
そしてあなたの人生によき変化が現れてきた時、あなたの夢は意味と価値を獲得します。どんな夢であっても、それから学び、生かしていくことによって、すべての夢は「吉夢化」していくのです。
プラユキ・ナラテボー
タイのチュラロンコン大学大学院に留学し、農村開発におけるタイ僧侶の役割を研究。1988年、瞑想指導者として有名なルアンポー・カムキアン師のもとにて出家。以後、自身の修行のかたわら、村人のために物心両面の幸せをめざす開発僧として活動。またブッダの教えをベースにした心理療法的アプローチにも取り組み、医師や看護師、理学療養士など医療従事者のためのリトリート(瞑想合宿)がスカトー寺で定期的に開催されている。
近年は、心や身体に問題を抱えた人や、自己を見つめたいとスカトー寺を訪れる日本人も増え、ブッダの教えをもとにしたサポートを行っている。日本にも毎年招かれ、各地の大学や寺院での講演、ワークショップから、有志による瞑想会まで、盛況のうちに開催されている。
「気づきの瞑想」を生きる タイで出家した日本人僧の物語
著者:プラユキ・ナラテボー
出版社:佼成出版社
定価:本体1,800円+税
発行日:2009年8月
「気づきの瞑想」で得た苦しまない生き方
著者:カンポン・トーンブンヌム
監訳:プラユキ・ナラテボー
出版社:佼成出版社
定価:本体1,400円+税
発行日:2007年11月
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