経営者が本気で「変わろう」と思えば、かならず変わる
幸せはいろいろな心の状態の中でも一番のもので、人間が目指すべきものなのに、意外に研究されていないんです。
先ほどお話したように、僕はエンジニアだったので、最初は「幸せな使い心地の製品」から始め、食べれば食べるほど幸せなお菓子やサービスなどの研究をしたのですが、その中で幸せになる家作り研究をする機会がありました。幸せになる家作りは幸せになる街作りにとも重なります。そうなると、「幸せになる職場の研究」もしたくなるじゃないですか。
つまり、「幸せ企業」も、幸せになる製品の延長線上にあるものなのです。
人びとを幸せにする対象は、製品なのか? サービスなのか? あるいはコミュニティなのか? その違いがあるだけで、幸せを追求するという方向性は、終始一貫しているんです。
──そうした方向性の延長線上にある『幸せ企業』の研究を続けられて、発見されたものはありますか?
製品もサービスも、幸せ研究はそれぞれみな、実におもしろい。中でも経営は、人に及ぼす影響がとても大きく、製品開発よりもずっと早く人に響くという特徴がありますね。特に社長とか経営者が「社員を幸せにしよう」「変わろう!」と思うと、これはもう、てきめんに変わります。
僕が関係した企業で一番変化が早かったのは、社員100名のA会社で、半年で成果が現れました。本書巻頭で紹介している『人生満足尺度SWLS』※を使った社員への最初のリサーチでは、関連会社10社中ワースト1。すなわちもっとも不幸な会社だったんですが、半年で5位にまで上昇したんです。
※SWLS…Satisfaction With Life Scaleの略。「幸福学の父」と言われるエド・ディーナーによって開発されたもので、「ほとんどの面で、私の人生は私の理想に近い」「私の人生は、とても素晴らしい状態だ」などの5つの質問に答えることで、その人の人生への満足度を数値化する。
A社の改革は比較的簡単でした。不幸せの原因がモーレツ社長にあることがハッキリしていたからです。環境関連の企業で、社会貢献度の高い、とてもいい事業をしていたんですが、強い使命感を持つあまり社員を働かせすぎていて、みんな疲弊しきっていた。さすがに社長本人も「社員が疲れ切っている」「これはおかしい」と気がついた。僕が関わってわずか半年でブラックから普通の会社の幸福度になり、その後1~2年で、10社中1~2位を争う『幸せ企業』になりました。
経営者が本気でやろう、変わらなければならないと思えば、企業はそれぐらいスピーディに変わっていけるものなのです。
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