インタビュー

前野隆司さんインタビュー① 心のあり方の最高峰は「幸せ」

聞き手=千羽ひとみ(フリーランスライター)
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「仕事は辛いのが当たり前」は本当か?

──そんなに短期間で『幸せ企業』になれるとは驚きです。まずは何をしたのでしょう?

本書にも書きましたけれど、幸せの条件なんて実に簡単なことばかりです。
みんながワクワクイキイキと働けて、人との繋がりを大切にする企業になればよいだけです。

誰でも知っていて、誰もがわかっていることなんです。簡単なことですから、幸せ企業になろうと思えばかならず変われますし、逆に言うと、そう思わなければ絶対に変われません。

──ですが企業は、利益追求が第一義とされています。そもそも会社は、幸せを追求する場なのでしょうか?

「仕事は辛いのが当たり前」という意見ですね。確かにこうした意見が従業員から出ることがありますし、経営者から「利益を上げるのが会社の目的」「労働の対価が金銭」という声がでることもよくあります。ですが、双方ともに近視眼的だと思います。

目の前の給料、目の前の利益も大切ですが、企業には、存続とか社会的貢献とか、長期的な視野が欠かせないものだからです。

A社のモーレツ社長も、自社のミッションである環境保全を一歩引いて長期的な視野から見直すことで、社員の働き方が楽になり、勤続期間が長くなった。社員が長く勤務することでさまざまなノウハウが蓄積されるようになり、他社には出来ない仕事が出来るようになったんです。

確かにその場だけを見れば、働かされ過ぎ、働き過ぎのほうが売上は大きくなったかもしれません。ですが決して続くものではありません。なだらかでも長く続き、他社に出来ないサービスを提供するほうが、トータルではずっと利益が得られるはずなのです。

──確かに長期的な視野も必要だと思いますが、日本企業を取り巻く環境は厳しくなるばかりです。なだらかな成長で、不況などの危機が来た時に乗り切れますか?

働く人が不幸な企業は、危機が来ると「これはマズイ!」ということで軍隊みたいに「働け! 働け!」となり、社員は肉体的・精神的にさらに疲弊していきます。疲弊するから業績が回復しません。

逆に、幸せ企業になっていると、不況が来るとみんなが力を合わせるんです。力を合わせて危機を乗り切ることが出来る。あるレベルの幸福度になり、力を合わせてイキイキワクワクしながら業績を上げていく快感を知ってしまうと、もうもとへは戻れません。不況や危機といった困難が、逆にチャレンジする甲斐のある、おもしろいものになるんです。

こうした企業ほど強いものはありません。

実は現在、学校の部活動でも同じことが起こっています。昔の体育会って、監督の命令のもと、「やらされる」というスタイルでしたが、今は監督だけが課題を抱えずに、部員の意見を聞きながら力を合わせ、智恵を出し合い、工夫し合ってやっていくというスタイルになっています。恐怖でなく、力を合わせてやり遂げる快感で成果を出していくんです。

会社でも部活でも、幸せになることで利益を出す方法が次々と見つかっています。それに乗れない組織、あるいはそれが出来ない昔ながらの体育会は、焦るばかりで不祥事ばかりが続くような、そんな事態になっているんです。

(次回へ続く)

〈書籍情報〉
幸せ企業のひみつ 〝社員ファースト〟を実現した7社のストーリー
編著者:前野隆司 著者:千羽ひとみ
出版社:佼成出版社
定価:本体1,400円+税
発行日:2019年7月30日発行
前野隆司
まえの たかし:慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科教授。1962年、山口県生まれ。東京工業大学卒、同大学修士課程修了。キャノン入社後、カリフォルニア大学バークレー校客員研究員、ハーバード大学客員教授、慶應義塾大学理工学部教授等を経て、2008年より現職。博士(工学)。研究領域は幸福学、システムデザイン・マネジメント学、イノベーション教育と幅広い。著書に、『幸せのメカニズム』(講談社現代新書)、『システム×デザイン思考で世界を変える』(日経BP社)、『実践ポジティブ心理学』(PHP新書)、『幸福学×経営学』(内外出版社)、『「幸福学」が明らかにした 幸せな人生を送る子どもの育て方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など多数。
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