本当の〝和〟は、十人十色であること
アメリカ企業と日本企業の『幸せ』を比べてみると、ちょっと違いがあるように思えます。
アメリカ人は日本人の目から見るとちょっとドライな感じの幸せ。個人主義の社会なので、個人が満たされることを第一の目標にして、転職もドシドシします。
日本企業はどちらかというとウエットで、「和の精神」が幸せに強く絡む傾向があると思います。
「和を大切にする」というと、とがったところがあってはいけないという誤解がありますが、実はこれは間違った「和」の解釈です。「和を大切にする」という言葉の正しい意味は、「多様な人が、多様な生き方をすることを尊重する」というものであるべきでしょう。
男女はもちろん、本書に出てくる企業の例のように障害だとかLGBTだとか、どんな個性も取り残されずに調和していて、十人十色。十人が十人とも、それぞれの強みを発揮できる環境ということです。それこそが、幸せな企業の土台となるものです。
僕は仏教にも非常に興味を持っているのですが、こうした「ありのままに」という考え方は、仏教にもありますね。幸せの第4因子そのものです。慈悲や利他、つまり「人のために」という考え方は第2因子といえるでしょう。第1因子の「やってみよう」を「社員を幸せにし、社会に貢献していこう」と捉えると、慈悲の実践に繋がると思います。
こう考えると、幸福学は仏教の教えにとても近いものがあるように思いますね。
〈書籍情報〉
幸せ企業のひみつ 〝社員ファースト〟を実現した7社のストーリー
幸せ企業のひみつ 〝社員ファースト〟を実現した7社のストーリー
編著者:前野隆司 著者:千羽ひとみ
出版社:佼成出版社
定価:本体1,400円+税
発行日:2019年7月30日発行
前野隆司
まえの たかし:慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科教授。1962年、山口県生まれ。東京工業大学卒、同大学修士課程修了。キャノン入社後、カリフォルニア大学バークレー校客員研究員、ハーバード大学客員教授、慶應義塾大学理工学部教授等を経て、2008年より現職。博士(工学)。研究領域は幸福学、システムデザイン・マネジメント学、イノベーション教育と幅広い。著書に、『幸せのメカニズム』(講談社現代新書)、『システム×デザイン思考で世界を変える』(日経BP社)、『実践ポジティブ心理学』(PHP新書)、『幸福学×経営学』(内外出版社)、『「幸福学」が明らかにした 幸せな人生を送る子どもの育て方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など多数。