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「苦しみを抱えた人とともにいること」藤野正寛さん Zen 2.0レポート(4)

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9月21日と22日の両日、禅とマインドフルネスについての日本初の大規模な国際フォーラム〝Zen 2.0〟 第3回が、日本の「禅」発祥の地、鎌倉五山第一の建長寺において開催されました。その内容を紹介していきます。

京都大学で瞑想の脳研究に取り組む藤野正寛さん。身近な例から「苦との付き合い方」を語った

「苦しみを抱えた人とともにいること」―その2―

藤野正寛(ふじの まさひろ):京都大学大学院教育学研究科助教。神戸大学経営学部卒業後に、医療機器メーカーに7年間勤務し、経営企画管理業務に従事。海外駐在員時代に、10日間のヴィパッサナー瞑想リトリートに参加し、瞑想が身心を健康にすることを体験的に理解し、「働いている場合ではない」と退社。京都大学教育学部に編入学し、学士・修士・博士を経て、現在に至る。現在は、瞑想の実践者かつ研究者として、瞑想実践を通じてでてきた問いをもとに、認知心理学的手法やMRIなどの実験装置を用いて、瞑想の脳研究を進めている。特に、智慧を育むマインドフルネス瞑想と慈悲を育むコンパッション瞑想のメカニズムの解明に取り組むとともに、人々の身心の健康のために、それらを社会に導入する活動に取り組んでいる。
HP: http://masahirofujino.jp

*  *  *

文責:ダーナネット編集

「共感」すると辛くなる?!

なぜ、人の苦しみを横で見ていると、自分も苦しくなってしまうのでしょうか。

結論から言いますと、それは、私たちが「共感」能力をもって生まれてくるからです。藤野さんは、このことを、ミラーニューロンやプライミングといった脳科学や心理学の実験を踏まえながら紹介されました。

ミラーニューロン (英: Mirror neuron)…霊長類などの高等動物の脳内で、自分が行動する時と、他の個体が行動するのを見ている時の両方で、活動する神経細胞のこと。他の個体の行動を見て、まるで自身が同じ行動をとっているかのように”鏡”のような反応をすることから名付けられた。あくびがうつったり、他者の行動を見て、我がことのように感じたりすることに関わっていると考えられている。

 プライミング (英: priming)…あらかじめある事柄を見聞きしたり覚えたりしておくことにより、その後の意思決定や思い出すことに影響が生じることをいう。たとえば連想ゲームをする前に、あらかじめ果物の話をしておくと、赤という言葉から「りんご」や「いちご」が連想されやすくなる。こうした効果が生じるのは、単語や概念が互いにネットワークを形成しているためだと考えられる。 指導場面で先に手本を示したり、覚えさせたい事柄について雑談してから教えることで、プライミング効果による学習効率が高まるとされる。

苦しんでいる他者に寄り添い、見守りの環境を提供できるようになるためには、共感能力が必要不可欠です。しかし苦を上手に扱えない人には、共感能力が負担になることもまた事実です。つまり相手に共感すると、自らもそれに引きずられ、苦しみを感じてしまうという危険が生じる、ということなのです。これを「共感的苦痛」と呼んでいます。

ただしく共感能力を発揮し、しかも相手の苦に巻き込まれずに他者の傍らで寄り添い続けるためには、何が必要なのでしょうか。それには、三つの方法があります。

1 マインドフルネス瞑想の実践

2 相手の立場に立つ

3 自分で慈悲の方向づけをする

まず一つ目の「マインドフルネス瞑想の実践」は、仏教が伝える「二本目の箭(矢)を受けない」(文末に註*1)ための必須条件です。

この点については現在、脳科学実験でも証明されています。瞑想の熟練者は、苦や楽の感覚を一般人と同じように持つのだが、智慧の無い者のように、それをきっかけに新たな苦を生み出すことはない、という実験結果が得られているのです。(文末に註*2)

そして、二番目の「相手の立場に立つ」ということでも、それが正しく実践できたなら、共感的苦痛が減少する、という実験結果が得られています。

その実験とは、「苦痛に満ちた大学生の物語」を聞く実験参加者を次の三群にわけて、「共感」の高低や、「共感的苦痛」の高低を調べたものです。そのときの結果は以下のようなものでした。

 

この実験から、自分や相手の立場に立つことで共感は高まり、しかも相手の立場に立つことで共感的苦痛が低下することがわかったのです。どうやら自己向き視点の人は、苦しみを抱えた人に直面したときに、自分のネガティブ体験を想起しやすいのではないかといわれています。

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