10月29日、東京都港区にある仏教伝道協会は、ジョージ・タナベ氏(ハワイ大学名誉教授)を招き8階ホールにてシンポジウムを催しました。『日本仏教の未来(The Future of Japanese Buddhism)』と題されたシンポジウムは平日夜の開催にも関わらず定員100名がほぼ満杯となる盛況でした。
シンポジウムは、タナベ名誉教授が1990年に佼成出版社から刊行した書籍『日本仏教の再生』をテーマとしたもの。ほぼ30年前に書かれた本書は、「今日の日本仏教のおかれている状況を予言していたのではないか」との問題提起のもと、タナベ名誉教授の基調講演、ついで佐々木閑・花園大学教授との対談、参加者による質疑応答と続いた。
ジョージ・タナベ ハワイ大学名誉教授
基調講演冒頭、タナベ名誉教授はハワイにおける日本仏教の現状について述べられました。
かつて「日本仏教」はハワイでの日常生活に根付いていた。日本の文化的な習慣として実践されていた。しかし、現在では在家信者の高齢化が進み、タナベ名誉教授の子どもや孫の世代にあたる日系4世、5世にとって、既に日本の文化そのものが外国の文化となっていると話されました。
アメリカは多様性(ダイバーシティ)に富んだ社会です。様々な民族、様々な宗教が共存しています。仏教もまた多様です。しかし、「日本仏教」の信者の人たちは同じ民族で集まる傾向がつよく日系の若い人たちにとって、「日本仏教」のコミュニティーというものはあまり居心地の良いものではないと解説されます。
アメリカでは、現在、仏教には二つの方向性があるとタナベ名誉教授は述べられます。一つは上に、もう一つは下に。寺院仏教は衰退しています。しかし、近代的なシャカムニの仏教への関心は高まっています。瞑想やマインドフルネスの実践は学校、会社、軍隊の中ですらも非常に人気が出てきていると説明されました。
その上で、タナベ名誉教授は、「仏教とは多様性を尊重する宗教であり、新しいアイデアを歓迎する宗教です。その教えに従って何事も変わって行きます」と述べ、「仏教はさまざまな時代に適応し、新しい状況の中で変わって来ました。これからも引き続き変化し、オープンでなければ、未来において存在することはできないと思います」と語ります。
また、上座部仏教に言及し、「初期の仏教の教えは、カルマという考え方に基づいていました。そして、良いことをするという事に重要性を置いています。どうすれば神なる存在(divine beings)が私たちを救済してくれるかという教えではありませんでした」と述べ、そして、大乗仏教については、「大乗仏教の中には新しい考えがあります。神なる存在(divine beings)によってどうすれば救われるかということが書かれています」と解説します。しかしながら、「上座部仏教のカルマと大乗仏教の慈悲(grace)のどちらかを選ぶ必要はありません。両方とも受け入れることができるのです」と現代に生きる私たちの選択の自由についても述べられました。
「近代的な考え方として大乗仏教の比喩は迷信だ、非科学的であるとして敬遠する傾向があります」けれども、タナベ名誉教授は、「私たちは両方(上座部仏教のカルマと大乗仏教の慈悲)を大切にする」未来の可能性について言及されます。
「神とは意味のあるフィクションであり、文字通り事実ではないということを理解することです。神の慈悲(divine grace)を理解し、それがどういう働きをするのかを理解することができれば、大乗仏教の信仰を生き返らせ、上座部仏教のカルマの教えと組み合わせることによって未来の仏教を生み出すことができると思います」とタナベ名誉教授は語ります。
その方法の一つとして、「大乗仏教を再興させるためには、教理(Buddhist doctrine)を科学的な方法で解釈しなおす必要性があります。教理が科学や論理と一貫性がないものがありますが、そういった教理を捨て去るのではなく、それらを活用することができると思うんです」とおっしゃられます。
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