自分にとって、父親とはどんな存在だったのか。
各分野で活躍する男たちが語る、心に残る父の言葉。
各分野で活躍する男たちが語る、心に残る父の言葉。
「あなた、彼女、作る、いいま」
©村松真砂子
たくさんの音の真ん中で
中国で料理人をしていた父は、観光ビザで来日して、そのまま日本に居ついてしまった。そのときに鍋と皿を持ってきていたんだね。もし、お金が無くなっても、鍋と皿があれば料理ができる。料理人として働けば、お金になるって考えていたらしい(笑)。
その後、母と出会い、母は父の料理に惚れ込んで一緒になり、2人で四川料理のお店を出しました。子どものころは、父と遊んだ記憶はありません。ほとんど家にはいないのが普通でした。だから、たまに一緒に過ごすと、父はとにかく優しかった。
半面、仕事にはとても厳しい人でした。弟子に早く一人前になってほしかったんでしょう。父を訪ねて店に行くと、弟子たちに、言葉は少ないけれど、厳しく指導をしていました。厨房での父は、鋭い眼光をしていて、何も言わなくても威厳がありました。
切る、蒸す、炒める、揚げる……。父の調理場には音が溢れていてね。たくさんの音がして、その真ん中で指揮を執る父の背中が格好良くて、憧れていたものです。
そういう環境だったから、僕が料理人になるのは運命でした。実際、料理を食べるのも作るのも好きだったので、自然とその運命を受け入れてしまったところがあったんだね。父から「跡を継げ」と言われたことは一度もありません。でも、いつかは父の跡を継ぐと思っていた。それで、大学を卒業して、22歳で父に弟子入りしたんです。
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