今回のテーマは、認知症と間違えられやすい「せん妄(もう)」についてです。
私たちのように在宅での認知症医療にかかわっている経験から見ますと、介護に携わる家族を一番困らせているケースが、意識混濁(意識の曇り)といわれる「せん妄」だといっても過言ではありません。日々、「せん妄」との闘いといってもいいぐらいです。しかし、その割に病院などの医療現場では、まだあまり認知されていません。「せん妄」患者の介護が原因で、うつ病になったり、虐待をしたりと、介護に携わる側にも悪影響を招くことにつながりますので、そのためにも予防と正しいケアの知識が必要です。
認知症との違い
そもそも「せん妄」は、高齢化による認知症が原因で発症する徘徊、暴力、暴言、異食、攻撃、不潔行為といった行動障害や、興奮、うつ状態、妄想、幻覚、不眠などの意識障害と混同される場合が多いのですが、認知症とは違うものです。
とはいっても「せん妄」も認知症と同じように、高齢者に起こりやすく、初期症状は、新しい情報を覚えられなくなったり、いま自分がどこにいるのかわからなくなったり、つい最近起こったことを思い出せなくなったりします。
さらに急に意味不明なことを言い出したり、興奮状態に陥って、同じ言動をくり返したりすることもあります。
やっかいなことに認知症と合併しやすいのです。しかし、認知症と「せん妄」の違いは、認知症の場合が認知機能が時間とともに徐々に低下してくるのに対し、「せん妄」は突然起こるということです。特に夕刻や夜間に発症します。
イラスト1
ただ、その症状が長く続くわけではなく、数日から数週間で終わる一時的な場合がほとんどです。なので適切な処置をすればよくなることも多く、この点も認知症とは大きく異なります。