お父さんのための介護教室

薬の〝多剤併用〟にご注意を

医師 髙瀬 義昌
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今回は、認知症の治療で必要な薬とその知識について述べたいと思います。

認知症とは、何らかの後天的な疾患が原因で、脳の機能が低下して日常生活や社会生活に支障をきたすさまざまな症状をいいます。

現在、認知症を引き起こす原因になる病気は70種類以上といわれています。そのなかで最も多いのが、アルツハイマー型の認知症です。そのハイリスク群である「軽度認知障害」と呼ばれるグループを合わせると、日本では約600万人以上の認知症患者がいるといわれています。

認知症の症状には、「中核症状」(物忘れ、時間や場所がわからない、言葉がうまく使えない、目的にあった動作ができない)と、「周辺症状(BPSD)」(夜中に徘徊、急に大声を出す、暴言を吐く、暴力を振るうなど)があります。

薬が多めになる認知症

認知症の治療法は、医師によってさまざまですが、一般的に投薬によるものが多いようです。投薬は、それぞれの症状に応じた処方が必要となりますし、「周辺症状」によっても違ってくるものです。しかし、〝薬〟の処方は難しく、問題もあって、認知症の症状を悪化させているケースがたくさんあります。

主な薬を紹介しましょう。患者さんに暴力や攻撃性がある場合に処方されるのは「リスパダール」という薬です。拒食、拒絶、拒否の場合は「セロクエル」「ジブレキサ」。怒りっぽく、すぐイライラしたり、不機嫌になったりする場合は「グラマリール」。幻覚、妄想、せん妄の場合は「テトラミド」や先ほどの「リスパダール」など。情緒不安定、躁状態の場合は「テグレトール」「デパケン」。意欲・自発性の低下の場合は「脳循環代謝改善薬」など、症状に合わせて薬が使い分けられています。

ところが、病院によっては認知症の症状がさまざまであると、薬が多めに処方されている場合も少なくありません。

多剤併用

イラスト1

複数の薬を処方することを〝多剤併用〟といいますが、これは副作用を最小限に抑えつつ、最大限の効果を出すために行なわれる治療法です。しかし、この方法だと、一つの副作用を食い止めるために、別の薬が必要になりますので、さらに増えていきます。

どんな薬にも副作用があります。とくに、「周辺症状」の治療薬には注意が必要です。たとえば「リスパダール」という薬は、長く服用していると体が硬直してきたり、体のバランスが崩れてまっすぐに立っていられなくなることがあります。また、「セロクエル」は、使用量が多いと過鎮静といって精神活動が過度に抑えられ、体のだるさや眠さ、注意力、認知力の低下につながる場合もあります。

患者さんのなかには、多剤併用で動けなくなり、寝たきりになってしまうケースが少なくありません。あるいは逆に、暴言の症状が出てくることもあります。また、前号でご紹介した意識の混濁が生じる「せん妄」になってしまうケースもあります。

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