ひたすらに極楽往生を求めた僧、源信。
地獄と極楽の様相を表わして、
日本人の仏教的心理に深い影響を与え続けた源信とは、
一体どんな人物だったのでしょうか─。
地獄と極楽の様相を表わして、
日本人の仏教的心理に深い影響を与え続けた源信とは、
一体どんな人物だったのでしょうか─。
©悟東あすか
地獄の恐怖を根づかせる
源信(げんしん)は、『往生要集(おうじょうようしゅう)』を著わして、念仏することで阿弥陀仏に導かれて、極楽往生ができるという信仰を打ち立てました。同時に地獄の様相を描くことで、その恐ろしさを日本人の宗教的心理に根づかせた人でもありました。
江戸時代の禅僧の白隠(はくいん)は、幼いときに地獄の絵を見てからというもの、その恐ろしさに脅えつづけて、その恐怖を克服するために出家したといいます。
また作家の太宰治は、『思ひ出』という作品で、
「血の池や、針の山や、無間奈落という白い煙のたちこめた底知れぬ深い穴や、到るところで、蒼白く痩せたひとたちが口を小さくあけて泣き叫んでいた。嘘を吐けば地獄へ行ってこのように鬼のために舌を抜かれるのだ、と聞かされたときには恐ろしくて泣き出した」
と、やはり幼い心に見た地獄絵が、強烈に焼きつけられた印象を書いています。
恐らく日本人の多くが、こうした地獄を恐れていたことは、近年になっても「言うことを聞かなければ、地獄に落ちるぞ」といって殺人鬼を育てていたカルト教団があったことでも分かります。
それでは長年にわたって日本人に恐怖の宗教的心理を植えつけた源信と、その信仰はどのようなものであったのでしょう。
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