ただ見守ってくれるオヤジだったから好きなことができた
口数も少ない人ですから、いつも「どうや?」って言うだけで……。こっちも「どうや?」って聞かれてもねぇ(笑)。
だからオヤジのひと言で人生が変わった、なんてことはないと思うのですが、ただ印象に残っているのは
「あんたが元気やったらそれでええ」
という言葉。これ、昔からの口癖ですが、いまでも電話をすると、必ずそう話を締めくくります。
それは、僕の体が弱かったせいもあるかもしれません。高校生のとき、80パーセント死ぬ確率があるという大手術をしたことがあって。そのとき、オカンは泣いていたけれど、オヤジは僕を不安にさせないようにと、「ニーッ」と笑ったんです。麻酔が効くまでの数分間、オヤジがそんなふうに笑うから、かえって「ボク、死ぬんだな」と思っちゃってね(笑)。結果、手術は成功したんですが、息子が命に関わるような経験をしているので、「あんたが元気やったら……」という言葉がマストなのかもしれません。
何かを押し付けることもなく、ただ見守ってくれたオヤジだったから、僕はいまでも自分で好きなことを見つけられるんです。
子どもは親から抑圧されると、抵抗したくなりますが、余計なことも言わずにただ協力してくれていると、何も反発できなくなってね、これではグレようもないじゃないですか(笑)。とにかく若い頃はグレる理由を探すものですからね。実にうまく育てられた気持ちはありますね。ちょっと悔しいけど(笑)。
自分も子どもをもつ身になったときに、「オヤジという存在は、子どもにとっていつも味方じゃなきゃいけないな」と思いました。極力がんばって、僕もあの父親のようになりたいと思っています。
イラストレーター、作家、ミュージシャンなど
みうらじゅん
1958年、京都府生まれ。武蔵野美術大学在学中に漫画家デビュー。97年、「マイブーム」で新語・流行語大賞受賞。2004年度日本映画批判家大賞功労賞を受賞。著書に『色即ぜねれいしょん』『マイ仏教』『キャラ立ち民俗学』など多数。最新刊に『人生エロエロだもの』がある。
みうらじゅんOFFICAIL SITE http://miurajun.net/
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