インタビュー

野口 健(アルピニスト)

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最後は必ず守ってくれると感じられた

そんな二人の生活が始まって数年後、オヤジの転勤でイギリスに渡りました。そして通っていた高校で僕は暴力事件を起こしてしまいます。

オヤジに叱られるだろうと思ったら、「やっちゃったものはしょうがないなぁ」と一言。「高校を辞めようかな」と言うと、「そうか。お前のトコは学費が高かったから、そりゃ助かるな」と言うのです。
驚きました。「中退する」と言えば止めてくれると思っていたのです。そして、あぜんとする僕にこう続けました。

「俺はエリートに見えるかもしれないけれど、大使の肩書をもつ人間は日本に100人以上いる。そして、退官したら肩書も何も残らない。もしもお前が、“野口健”という名前が肩書になるような生き方ができたら、面白いと思う。まあ、しょせんお前の人生だ、自分の人生をちゃんと生きろ」

話はそれでおしまい――。

子どもを突き放すようなところがあったオヤジですが、最後は必ず守ってくれるとも感じていました。それを実感したのはイエメンの空港でトラブルに遭遇したとき。場内は兵士が配備された厳戒態勢で、ピリピリしたムードが漂っていました。そんな状況のなか、兵士の一人と僕の肩がぶつかり、つい肘で小突いてしまったのです。「ガチャッ」と3人の兵士が僕に向かって銃を向けました。「しまった、撃たれる!」と思ったらオヤジがすぐさま駆け寄って、ただならぬ形相で兵士の前に仁王立ちしたのです。怖気づいた兵士は銃を下ろしました。
「オヤジはこういうとき、真っ先に飛んでくるんだ」と、その背中が大きく見えたことを覚えています。

アルピニスト
野口健
1973年、アメリカ・ボストン生まれ。亜細亜大学卒業。高校生のとき、植村直己の著書に感銘を受け、登山を始める。89年にモンブラン、99年にエベレストの登頂に成功し、25歳で七大陸最高峰最年少登頂記録を樹立。以降、エベレストや富士山のごみ問題に着目して清掃登山を開始。2015年からはヒマラヤ大震災基金を立ち上げ、支援活動に尽力している。著書に『あきらめないこと、それが冒険だ』『震災が起きた後で死なないために』など、多数。
野口健公式ウェブサイト http://www.noguchi-ken.com//
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