自分にとって、父親とはどんな存在だったのか。
各分野で活躍する男たちが語る、心に残る父の言葉。
各分野で活躍する男たちが語る、心に残る父の言葉。
「お前に自由をやる」
自由でいたかった
僕が1歳10カ月のときに拾ってくれたのが父です。この事実を37歳で偶然に知るのですが、僕から父にそれについて話すことはありませんでした。「生活が苦しかったのに、育ててくれてありがとう」とお礼を言ってあげるべきだったのかもしれません。でも僕は、父が亡くなるまで、ほんとうの息子のように振る舞いました。それが育ててくれた親に対する礼儀だと思っていたのかもしれません。
真面目にコツコツと病弱な母の入院費を稼いで、一切、贅沢はせずに、母や僕のために生きた人です。
とにかく恐い人でした。スクエアな人というか、型にはまった考え方をする人でした。反して僕は型にはまるのがイヤなタイプ。父は「背伸びをするな」とよく僕に言ったけれど、背伸びどころか、ジャンプしたい、飛びたいと思っていた。自由でいたかったんです。それに、陰で努力を積んでいても、そんなことはおくびにも出さずに悠々と生きている風を装いたかった。
そんな二人ですから、意見が折り合うわけはありません。でも、父にはいつも畏怖の念を抱いていました。だから僕が何か言って、父が怒鳴れば、それで話はおしまい。
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