この本は、歴史社会学者の小熊英二氏が、未来ある10代の子供たちに向けて「日本という国」の「いまここ」を解説したものです。2006年に出版。好評につき版を重ね、今年、決定版として上梓されました。
10代向けと思ってあなどるなかれ、「明治維新」と「第二次大戦後」という新しい国を興すにも等しい二つの出来事を軸として、日本の近現代史が簡にして要を得て説明されてゆきます。
ヨーロッパやアメリカに植民地にされるのを恐れて独立国家となることを目指した「明治維新」。その後、日本は、「西洋」に侵略されるおそれのある国から、「西洋」と同じく「東洋」を侵略する国へ。そして、第二次大戦後、「反共」政策のもとアメリカ協調路線をとっていった「日本という国」。
「戦後補償」、「憲法第九条」、「靖国神社」、「沖縄普天間基地」、「思いやり予算」、「日米地位協定」、「歴史教科書」、「従軍慰安婦」、「在日韓国・朝鮮人」等々。
かならず「問題」という単語とともにセットになってメディアに取り上げられるこれらの出来事について、日本と諸外国との認識のズレを歴史的な事実とからめて説明されてゆきます。
経済成長も鈍化し、隣国の中国が経済大国化していく中で、日本はアメリカとの関係を維持しつづけようとしているように見えます。強く豊かな国をめざした「明治維新」の夢を今一度という考え方に対し、アメリカとアジア諸国との間にあらたな関係を築くことで新しい未来を描く可能性を著者は指摘します。
「ヘイトスピーチ」に見られるように排外的なナショナリズムが深く静かに進行している今の「日本という国」に疑問を持っている人には一読をすすめます。
そして、特に、高校の日本史の授業で、三学期までに近現代史の履修が終わらなかった人にはおすすめです。
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