本書は、著者によるお掃除関連本の二冊目。前著『お坊さんが教える こころが整う掃除の本』は、十五ヶ国以上の言語に翻訳され海外で広く読まれているそうです。実用的な掃除の「ノウハウ」や「ハウツー」の解説に注力した前著と異なり、今作は「こころを磨く、世界を磨く、掃除の教え」と副題に書かれているように、より精神性に重きを置いた内容となっています。
英国の新聞記者さんから、「英国では多くの人が掃除の作業を誰か他の人に外注しています。それではいけないのですか?」と聞かれ、著者は「掃除は修行です。(中略)あなたは坐禅や瞑想を、お金を払って誰か他の人に自分の代わりにやってもらいますか?」と尋ね返したと本文にあります。
一見、実用書に見えます。しかし、注意深く本書を読むと、そこかしこに松本さんの考える「鍵となる概念」があるべきところにそっと置かれていることに気づきます。「マインドフルネス」「post religion(宗教のその先)」「抜苦与楽」「ひじり」「今ここ」「戒」「布薩」「無畏施」。これらの言葉が、「松本語」としか表現できない平易な文章の中で語られていきます。
「マインドフルネス」は「仏教」で言う「八正道」の「正念」に起源に持ち、その宗教色を排したものといわれています。「仏教」を「宗教」としてとらえるのではなく、「その先」に向けて開かれた言葉としての「松本語」を作り出そうとしているようにも見えます。
「名僧に掃除道を尋ねる」と題されたインタビューでは、堀澤祖門門主、横田南嶺老師、藤田一照老師、梶田真章貫主から、「仏道修行」としての「掃除」について貴重なお話を伺うこともできます。
本書は「掃除」という言葉を「主題」として、日本「仏教」の今ここを伝え、その未来の可能性について松本さんのお考えが述べられています。本書も前作同様に翻訳され、日本国内のみならず海外で広く読まれることを願って止みません。
バックナンバー「 ブックレビュー」