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起立礼着席青葉風過ぎた 神野紗希
「起立!」
学級委員が号令をかけます。クラス全員が立って、「礼!」で一礼。
「着席」で椅子に腰をおろして、授業がはじまります。
その瞬間、開け放されてあります校舎の窓から、青葉風が教室いっぱいに吹きこんできたというのです。そんな学校での一場面を見事に切り取ってみせてくれています。
黒板に落書きがしてあったり、今週の目標とか書かれてあったりしましたよね。
黒板にDo your best ぼたん雪 神野紗希
などとね。具体的なものの発見を俳句に詠むことで、そのときの教室の景色が読者の脳裏に浮かび上がってきます。
この句の場合、黒板に白墨で書かれた「Do your best」です。そして、窓の外には花びらのような大きな雪がふんわりと教室を包むように降っております。
青蔦や第二理科室星の地図 神野紗希
青蔦がからまった雰囲気のある校舎の理科室。試験管やフラスコでの実験やカエルの解剖などをするのです。
その理科室の隅には人体模型が置かれてあったり、壁に星座図が掛れています。銀河系宇宙の星の地図を見て、そのなかの太陽系の第三惑星の地球という小さな星の一つに、「いま」自分がいることを思ったりしているのです。
水澄むや宇宙の底にいる私 神野紗希
* * *
私たちは春夏秋冬の移ろいのなかで暮らしています。俳句は、悠久の時間の流れのなかにあって「いま」という時間と、私たちの目の前に広がっています空間における「ここ」という断面を切り取って詠みます。
芭蕉は、「物の見えたる光、いまだ心に消えざるうちにいひとむべし」と言っております。この「物の見えたる光」に気づき、それを受け止めて十七音にしてゆくのです。 そして、「物の見えたる光」を受け止めるには、正しく見るということが必要になってくると思います。それを俳句として正しく語ることよって心が解放されていくのです。
石嶌 岳(俳人)