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黒板に今日のメニューやマロニエ散る 草間時彦
食欲の秋であります。
マロニエの散っている街角にあるフランス料理のレストランの入り口に、今日のランチのメニューが黒板に書かれているのです。「今日は、ヒラメのムニエルか鴨のコンフィか」と言ってお店に入るのです。そして、パリは焼栗の季節になったかと思っているのです。
てんぷらの揚げの終りの新生姜 草間時彦
天ぷら屋のカウンターに座り、目の前で揚げてくれる海老、鱚、穴子、鯊、銀杏、松茸……。そして、最後に新生姜。江戸前の天ぷらに満足であります。
焼海苔でお酒を貰ふ余寒かな 草間時彦
浅草、並木の藪蕎麦。先ずは焼き海苔とお酒を注文。焼き海苔をちぎり、白木の枡の袴をはいた白い徳利を手酌でやりながら蕎麦を待つ時間の幸福。これまた粋であります。
隅つこで熱燗所望章魚の脚 草間時彦
こちらは大阪の道頓堀のたこ梅本店。隅の席に座って、熱燗で名物の蛸をいただきます。
錦小路麩屋町角の寒鰈 草間時彦
京都の台所・錦小路を歩いていると、麩屋町角のお店でふっくらとした寒鰈を見つけたのですが、旅の途中。買って帰るのを我慢して通り過ぎます。
初冬や今宮さんのあぶり餅 草間時彦
京都の今宮神社。きな粉をまぶした餅を串にさして炭火であぶり白味噌のタレをつけて食べる。これまた旅のひととき。
新涼や焼いてかますの一夜干 草間時彦
肉じやがで昼を済ませて小晦日
松過ぎやタルトに紅茶妻の留守
オムレツが上手に焼けて落葉かな
どの句も美味しそうではありませんか。食べものの俳句は美味しく作らなければいけないというのが鉄則です。日常のちょっとしたことに気を留めてそれを十七音にしております。作者の眼差しが読み手に伝わってきます。
月曜は銀座で飲む日おぼろなり 草間時彦
牡蠣食べてわが世の残り時間かな 草間時彦
草間時彦氏はダンディでグルメで素敵な大人なのです。
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私たちは春夏秋冬の移ろいのなかで暮らしています。俳句は、悠久の時間の流れのなかにあって「いま」という時間と、私たちの目の前に広がっています空間における「ここ」という断面を切り取って詠みます。
芭蕉は、「物の見えたる光、いまだ心に消えざるうちにいひとむべし」と言っております。この「物の見えたる光」に気づき、それを受け止めて十七音にしてゆくのです。 そして、「物の見えたる光」を受け止めるには、正しく見るということが必要になってくると思います。それを俳句として正しく語ることよって心が解放されていくのです。
石嶌 岳(俳人)