インタビュー

科学者が語る、仏教の魅力――『ロボット工学と仏教』 著者インタビュー(2)

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「本質的に合理と矛盾を併せ持つ仏教は、ロボットにはわからない」

と語る森政弘氏

――森先生に伺います。人工知能は仏教を理解できるとお考えですか?

 ロボットは合理的なものです。合理でできているわけです。矛盾がわからないのです。矛盾がわかるロボットは作れません。どんなプログラムを組んでも矛盾に到達するプログラムは作れない。それをやったら、コンピュータが暴走してしまうので。それに対して仏教は、本質的に合理と矛盾を併せ持っています。そういう意味で、ロボットには仏教はわからないのです。

将棋の名人が AI に負けたと言って怖がるけど、怖がる必要はありません。AIなりの得意分野があるのだから、複雑なことはやらせておけばいいんです。

たとえばコンピュータは組み合わせが得意なので、あらゆる俳句ができてしまう。コンピュータでいっぺんに俳句ができる。しかし、その中から選び出すことは人間にしかできません。これは美しい、これは心に残る、ということで選んでいく。このまねは人間しかできない。ロボットは、和歌を作らせても、あらゆる和歌を作ってしまう。

AIを尊重して、人間にできないことをやらせたらいいんです。

重機がそうです。パワーショベルなど、人間の力ではできません。重機がないと人間は困ってしまいます。それと同じことでコンピュータには、コンピュータの仕事があるのです。

――人間的な心を持つことはロボットには難しいのでしょうか。

 心というものはわからないのです。これは達摩(※1)さんが、弟子の慧可(※2)に言った言葉に「心不可得」というものがあります。慧可が「心がどうも落ち着きません」と達摩さんに言いました。すると達摩は「よし、その落ち着かない心を今、ここに出してごらん」と応えたのです。慧可は出せませんでした。「我、お前の心を安んじおわんぬ」と達摩は応えたのです。「ないものでなにを苦しんでいるんだ」ということですね。痛快ですね。

※1 生没年未詳。中国禅宗の始祖。インドのバラモンの出身と伝えられ、6世紀初め中国に渡り、各地で禅を教えた。嵩山すうざんの少林寺で面壁九年の坐禅を行ったという。達摩大師。円覚大師。

※2 487年~593年 中国・南北朝~隋の禅宗の第2祖。菩提達摩につく際、左腕を切断して求道の志を示したという伝説 (慧可断臂えかだんぴ) で有名。

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