「森先生から、仏教的な生き方を学ばせていただきました」と語る上出氏
――改めて、上出先生にとって仏教の魅力とは。
上出 はい、生きやすさですよね、やっぱり。いちいち腹を立てなくて済むようになりました。以前は、攻撃的とまではいかないんですけれども、論理的に正確でないものに対してはもう排除するっていう考え方しかできませんでした。でも今は、論理だけで説明できるものではない、違うものも必要なんだっていうことが分かると、人ともすごく付き合いやすくなりました。
森先生に教えていただいたのですが、亀井勝一郎先生の『大和古寺風物誌』(※3)の中に「汝の敵は全て、汝の恩人」という言葉があって、今まで私は、嫌いな人は全員敵だ、と思っていました。それを、何か学べるところがある恩人になり得る人なんだ、と風に頭の中で切り替えができるようになるんですね。それは最初はとても難しいことで、余裕がないとなかなか今でもできないことではあるんですけれども、そういう風に生きていくっていうのは仏教的に生活を送る、実践につながると思うのです。
そういう実践を繰り返していると、そのうち、誰かに腹が立ったりとか、何かにイライラしたりっていうのは、結局は自分の心から生まれて来ているということを反省的にとらえ直すことができるようになります。例えば、学術的な議論する時、修行の足りない私は、どうしても感情的になってしまうことってあるんですね。「私の言ってるほうが論理的に正しいのに、どうしてわかってくれないの」というのが、イライラや怒りになってしまうんです。それが、今いった頭の切り替えを心がけていると、そういう一方的なものの考え方をせずに会話ができるようになって来たと少しは思えますし、とてもありがたいことだと思います。
※3 亀井勝一郎1907年(明治40年)2月6日~1966年(昭和41年)11月14日。昭和期の文芸評論家、日本藝術院会員。『大和古寺風物誌』は、昭和18年(1943)刊。左翼文学から退き、日本の古典作品や仏教思想に傾倒するようになった著者が、大和路の古刹を訪ねた感慨を文明批評としてまとめたもの。
――本日は、貴重なお時間をありがとうございました。
森 政弘(もり まさひろ)
上出寛子(かみで ひろこ)
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