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渡り鳥みるみるわれの小さくなり 上田五千石
渡り鳥がみるみる小さくなって空の彼方へ遠ざかってゆくのを見て、自分が渡り鳥の視点になって自分がみるみる小さくなってゆくように感じられたのです。いわば渡り鳥の方から見ている自分がいるということの衝撃があります。見方を少し変えることによって、「いま」「ここ」にいる「自分」に気づくことができるのかもしれませんね。
作者の上田五千石は、「俳句によって、初めて私は私自身と巡り会うことができたのでした」と言っております。
ゆびさして寒星一つづつ生かす 上田五千石
澄み切った夜空に星が、一つずつはっきりと見えてきたのです。
赤く輝いているのがオリオン座のベテルギウス、その下の白い星がおおいぬ座のシリウス、こっちがこいぬ座のプロキオンと、星を一つひとつ指さしていっているのです。自分という小さな存在が宇宙という大きないのちに生かされていると同時に、自分もまたその星一つずつを生かしている存在なのではないかというのです。そうした宇宙と自己の意識とを通わせることですべてが生き生きと見えてきたのでしょう。
もがり笛風の又三郎やあーい 上田五千石
もがり笛を漢字でかきますと虎落笛です。冬の激しい風が電線などに当たって唸るような音を発する現象です。その激しい風は宮沢賢治の「風の又三郎」が吹かせたものだと想像し、いま、眼前にいない「風の又三郎」に「やあーい!」と呼びかけているのです。メルヘンを感じさせてくれますよね。
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私たちは春夏秋冬の移ろいのなかで暮らしています。俳句は、悠久の時間の流れのなかにあって「いま」という時間と、私たちの目の前に広がっています空間における「ここ」という断面を切り取って詠みます。
芭蕉は、「物の見えたる光、いまだ心に消えざるうちにいひとむべし」と言っております。この「物の見えたる光」に気づき、それを受け止めて十七音にしてゆくのです。 そして、「物の見えたる光」を受け止めるには、正しく見るということが必要になってくると思います。それを俳句として正しく語ることよって心が解放されていくのです。
石嶌 岳(俳人)
上田五千石全句集
出版社:富士見書房
定価:本体5,000円+税
発行日:平成15年8月26日