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「苦しみを抱えた人とともにいること」藤野正寛さん Zen 2.0レポート(4)

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ブッダの徳を〈プライム〉する

そして最後の「自分で慈悲の方向づけをする」というのは、慈悲のプライミングです。自分が自分自身で慈悲的な心の状態を育んでいくのです。

ここで、一つのプライミング研究が紹介されました。

さきほどと同じような「苦痛に満ちた大学生の物語」を聞かせ、「共感」の高低や、「共感的苦痛」の高低を調べたものです。このとき、実験参加者は

1.かつて自分が愛情に包まれていたときの記憶を思い出させる
2.両親に愛情深く育てられた大学生の話を聞かせる。

といったプライミングを受けたグループと、プライミングを受けなかったグループとに分けられていました。

すると「苦痛に満ちた物語」を聞いた後の結果は、プライミング無しのグループでは、共感そのものが低かったのに対し、プライミング有りのグループでは、共感が高く、しかも共感的苦痛は低いという結果を確認できました。たった数分間、自分が慈悲を受けた記憶や、他者が慈悲を受けている話を聞くことで、自分自身が慈悲のモードになり、そのモードで苦痛に満ちた大学生と向き合った結果だと考えられます。

また、大学教授の性格や行動を10分程度思い浮かべるだけで、その後の試験成績が高くなるという研究も紹介されました。どうやら頭がアカデミックモードになっていたようです。仏教には、ブッダの前生譚「ジャータカ物語」が伝わっていますが、これなどは、前世において数多くの菩薩行を積んだブッダの徳や行動を思い浮かべる(プライミングしていく)という、仏教ならではの、言ってみれば「ブッダ・プライミング」であったのではないか。

このように藤野さんは、まだアイディア・レヴェルと前置きしながらも、古代インドの「ジャータカ」研究の必要性を指し示しておられました。現在の心理学によって明らかなってきたプライミングが、すでに2500年前のインドで行われていたのではないか、という興味深いサイエンティフィックな指摘です。

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