ニュース・レポート

「日本の叡智とマインドフルネス」熊野宏昭×鎌田東二 Zen 2.0レポート(5)

熊野宏昭先生・鎌田東二先生
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINEで送る

「注意の分割」への学び

――瞑想を終えて、熊野先生の濃やかなご指導が始まりました。

いまの瞑想の前半が「注意の集中」です。呼吸に伴う身体の感覚に注意を向け、無念無想になろうとすると逆にいろいろなものが出てくるというものでした。ここでは雑念が出てくる。これはまずいのではないか、と考えがちですがそんなことはありません。雑念が出てくるからこそ、それに気づいてゆける。雑念が気づきの練習になる。一回雑念がでれば、一回気づきの練習になる。だから雑念が出て来てくれたほうが練習になる、とも言えるのです。

そして後半は、「注意の分割」です。集中に対応させると、今度はいろいろなものに気を配っていくわけです。広く注意のフォーカス拡げて注意を分割していく。現実のいろいろなものに注意を分割してゆくわけです。すると現実がよく感じられるようになる。

マインドフルネスの逆は、マインドレスネス。「心ここに在らず」の状態です。この状態は何で起こるかと言うと、それは一つには、心を閉じて感じないようになるからです。「不安になんかなりたくない」「痛みなんかヤダ」「辛い思いなんかしたくない、もうたくさん」。そう言ってこころを閉じて、感じないようにしてしまうと、マインドフルネスには、残念ながらなれません。

そしてもう一つは、余計なことを考えることです。考えの中に飲み込まれてしまう、ということです。考えというのは、自分の中にヴァーチャルな現実を作り出していくことです。例えば「リンゴ」と言えば、こころの眼でリンゴが見えてしまいます。こうして考えに飲み込まれてしまうと、現実との接点が断たれてしまうのです。この二つがマインドレスネスになる原因です。

すると我々のやるべきことは何か。それは、考えをいかに少なく減らして、いかにこころを開いて現実を感じ取るか、ということなのですが、でも考えを減らそうとすると、嫌なことは考えない、余計なことは考えないということになりますから、こころを閉ざした方向に向かいます。ですから非常に難しいのです。

――余計なことを考えないで、且つ、こころを開いている

これは、とても難しいことなのです。

熊野先生は二十数年前にはマインドフルネスを講義した先駆者

「注意の分割」をしているのは誰か

それに対して、瞑想後半の「注意の分割」が、「考えをいかに減らして、こころを開いて現実を感じ取る」ことを実現するための方法になっていきます。

つまり、いろいろなものに予め気を配ってゆくと、そこでこころのキャパシティは使われてしまって、いろいろなことをずっと感じ取ろうとすると、考えが浮かんでこなくなる。考える余地がなくなってくる、というものです。

「注意の分割」は、その先が現実なので、現実をありありと感じ取るという意味で、目標であると同時に手段なのです。注意を分割していると余計な思考が出てこなくなる、という目標でもあり手段でもあるのです。

しかしここで大きな矛盾がまた出てきます。「一体誰が注意の分割をしているのか」という問題です。それはやはり自分がやっているのです。自分が残ってしまう。自分というのは思考が作り出す。これは、現実から遠ざけてしまうものです。ありありと自分が残っています。

目標は「完全受動態」

ところで、マインドフルネス瞑想などを実践している方の中には、次のような経験をした方もいるはずです。「ちょっといつもと違う体験――ただ気づいているだけ」という体験です。別に気づこうとしているわけでもない。なにか努力をしようと思っているわけではないのだけれども、ただ、現実とともにある。気づいているだけです。これは努力が少ない状態。この状態は、じつは、心のキャパシティが残っている状態なのです。

ここで思い出してください。「注意の分割」について、先程、私はこう言いました。
「いろんなものに予め気を配ってゆくと、そこでこころのキャパシティは使われてしまって、いろいろなことをずっと感じ取ろうとすると、考えが浮かんでこなくなる。考える余地がなくなってくる」と。

しかし一方、「自分が気づいている」のではなく、ただ気づいている。この状態、それは心のキャパシティが、まだ残っている状態なのです。

注意を分割してこころのキャパシティを使いきってしまうと、もう考える余地が残らない。しかしこれは、〈自分で〉注意を分割している状態なので、本当は、その〈自分で〉というところが落ちて欲しいのです。それが「完全受動態」です。ただ気づきがある状態です。私は、マインドフルネスをそのように理解しています。

(次回は鎌田先生の登場です)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINEで送る